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第14話
成澤さんは笑いをかみ殺すような表情で俯いていた。
俺はじっとそのアルファらしい整った容姿を眺めた。前回も今回もスーツ姿だったが、長身の彼には良く似合っていた。ちらりと見える腕時計は自分のカジュアルなものと違い、鈍く輝いている。
本当に俺とは住む世界が違うんだ。
改めてそう思うと同時に、質問がするりと俺の口から出た。
「なんで運命の番を探しているの?」
唐突な質問に成澤さんが目を見開いた。
不躾すぎたかと、気まずい思いで俺はアイスティーを啜る。しばらくして成澤さんがぽつりと語り始めた。
「初めて俺が欲情したのは中一の時だった。目の前には発情期のオメガが居て、その圧倒的な香りに意識が飛んだ。そうして気がついたら俺はそのオメガを襲っていた」
俺達の生きる世界ではありふれた話だった。
しかしいくらありふれた話だとしても、当事者にとっては衝撃的な出来事だっただろう。
発情期中に外出したオメガを犯罪者のように責めたてたり、ヒートのオメガとのセックスはすごいぞなんて自らの武勇伝のように語るアルファも多い中で、成澤さんの表情には後悔しか浮かんでいなかった。
そして俺はそれをとても好ましいと思った。
本当に優しい人なんだ。
俺は過去を思い出し、傷ついた表情をしている成澤さんを見て胸が痛かった。
「途中で親父が止めてくれたから未遂ですんだけど、その時のオメガの香りが忘れられなくて」
一瞬泣き出すのかと思うくらい成澤さんは無防備な表情をした。
「それからどんなオメガに会っても、あれほど強烈な香りを感じたことはない。どうしてもあの時の香りを忘れられなくて……俺にとってもむこうにとっても消したい過去のはずなのに」
「その襲ったオメガと番うっていうのはできないの?」
誤ってアルファが襲ってしまった相手ときちんと籍を入れ、責任を取るという形で番うという話を聞いたことがあった。もちろん中一というのは論外だが、今の成澤さんの年齢ならば問題ないだろう。
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