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第16話

 ふいに机に置かれた俺の手に、成澤さんの手が重ねられる。  顔を上げると、成澤さんがじっと俺を見つめていた。 「じゃあ、俺と結婚するか?」 「えっ?」 「嫌か?」 「だって、俺なんかと……」 「なんか?冗談だろ?こんな若くて綺麗なオメガと結婚できるとしたら、俺は自分がラッキーだと思うね。君が言うように俺達は相性も悪くない。年齢的にも俺はずっと結婚を意識して相手を探していたしね」 「でも、運命の番は?」 「うん。だから結婚して、籍を入れても俺は君と番うことはしない。子供も当分は必要ないと思ってる。それでも良ければ結婚しよう」  俺は俯き、成澤さんの言葉の意味を考えた。  成澤さんは俺が困っているのを知って、善意でプロポーズしてくれた。  成澤さんならいくらでも綺麗なアルファや可愛いオメガと結婚することもできるのに。  俺と番う気がないっていうのは、運命の番が現れた時にいつでも俺と別れられるようにだろう。番契約だけして、一方的にオメガを捨てるアルファも多いことを考えれば、誠実な対応だよな。  俺は成澤さんが運命の番と出会ってしまったら別れるしかない。  でもそもそも運命の番なんて本当にいるのだろうか。  このまま成澤さんが運命の番に会わない可能性の方が大きいんじゃ……。 「こんなこと突然言われても困るよな。返事は今度でいいから」  離れようとする成澤さんの手を俺は両手で掴んだ。 「ううん。決めた。結婚しよう。不束者ですが、よろしくお願いします」  俺は握った両手に力を込めた。  俺の必死さか言葉使いが面白かったからか、成澤さんが吹きだした。 「はい。よろしくお願いします」  そう言って俺の頭を空いてる方の手で撫でてくれる。  俺は微笑みながら目を閉じ、成澤さんの温かい手の感触が好きだと思った。

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