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第17話
「それで瑞樹。今日はこれから時間ある?」
自分の名前を初めて成澤さんに呼ばれた感動で胸が高鳴り、問われた内容が頭に入らなかった。
「えっ?」
聞き返すと成澤さんは仕方ないなという感じで笑い、「これから予定空いてるかって聞いたんだけど」と言った。
「今日は特に何の予定もないけど」
「じゃあ、うちの両親に挨拶に行こう」
「いや、待って。早すぎでしょ」
俺がそう言うと、成澤さんはきょとんとした顔をした。
「そんなことないだろ。見合いなんて最初から、お互いの両親連れの場合だってあるんだし」
「でも、俺今日こんな格好で来ちゃったし」
自分の服装を見下ろし、眉を寄せた。
ジーンズに濃い青いシャツ。
シャツはお気に入りの物だったが、結婚相手の両親に会うのにふさわしいとは言えない。
「なんで?可愛いと思うけど」
さらりとそう言われて、俺は頬を染めた。
「今日は元から実家を訪ねるつもりで、午前中で仕事を切り上げてきたんだ。うちの両親はなかなか予定を合わせるのが難しい人達でね。今日会えないとなると、瑞樹と顔を合わせるのがだいぶ先になってしまうと思う」
そう言われると断れなかった。
そこまで急ぐ必要も感じなかったが、成澤さんの父親はいくつも会社を経営していると言っていたから多忙なんだろう。
会える時に会っておいた方がいいのかもしれない。
「じゃあせめて一度帰ってスーツに着替えてきてもいい?」
「いいよ、そんなの。うちの両親はそういうのを気にするタイプじゃないし」
伝票をもって成澤さんが立ち上がり、レジに向かう。
突然振り返ると俺のシャツの襟を直し、俺の赤い頬を親指の背で軽く撫でる。
それだけで俺の心臓は壊れそうだった。
「それに瑞樹は、スーツよりこういう恰好の方が似合ってる」
にこりと笑ってそう言うと成澤さんはまたレジに向かう。
俺は胸をきゅうと掴まれたような気分で、その場からしばらく動けなかった。
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