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第18話

 成澤さんの実家は予想していた通り、都心の一等地にあった。  一軒家でかなり敷地が広く、門から家の玄関まで相当な距離がある。  俺は成澤さんに両親の好物だと教えてもらった有名店のチーズケーキを片手に、車から降りた。 「すごい立派なお屋敷だね」  成澤さんの実家はうちの実家がウサギ小屋に思えるくらいの豪邸だった。それを見た瞬間、俺の緊張が一気に高まる。 「ああ。隣の家と距離が離れていないとまずいから」  ぼそりと成澤さんが言う。  理由を尋ねようとした時、玄関の扉が開き、成澤さんによく似た白髪交じりの男性がこちらにやってきた。 「貴一。そちらは?」  俺を見つめながら男性が問う。 「お父さん。彼は深澤瑞樹さん。この前、叔母さんの紹介のお見合いで知り合ったんだ。彼と結婚しようと思ってる」  緊張で掌に汗をかきながら、俺はお義父さんにむかって深々とお辞儀をした。  お義父さんは目を見開くと、破顔した。 「そうか。ついにお前も」  そう言って成澤さんの肩を叩く。 「いや、こんな美しくて若い方が貴一の嫁になってくださるなんて。いいんですか?本当にこいつで」  笑いながらそんなことを言ってくる。  一般的な上流階級のアルファなら考えられない対応だ。  まず俺の両親の職業やアルファかどうかを尋ね、俺が正直に答えたら、家柄が釣り合わないと反対するのが普通だ。  ある程度の厳しい言葉も覚悟していたせいで、こんなフレンドリーに迎えてもらえるとは思わず、俺は瞳を潤ませた。 「初めまして。今日は突然お邪魔してすみません。これ成澤さんからお好きだって伺ったので」  ケーキの箱を手渡すと、お義父さんが笑顔を深くした。 「ありがとう。そうなんだ、特に家内はここのケーキに目がなくてね。ぜひうちで一緒に食べよう。と言いたいところなんだが。貴一、すまない。母さんの調子がまた悪くてな」  お義父さんの言葉に成澤さんの表情が険しくなった。 「分かった。今日は残念だけどこのまま帰るよ」  成澤さんはそう言うと、俺にすまなそうな顔をした。 「母さんはちょっと発情期が酷い体質で、それも不規則なんだ。悪いけど、母に会うのは後日でいいかな?」  俺はその言葉に頷きながらも、内心首を傾げた。  いくら発情期とはいえ、抑制剤を打てばそれなりに対応できるはずなのに、息子を玄関にも通さず、駐車場で帰らせるなんて。  しかし俺はもちろんそんな疑問は口に出さなかった。

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