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第20話
「瑞樹っ」
成澤さんが駆け寄って来て、俺の背を摩った。
「大丈夫か?」
俺の服についていただろう匂いを感じ取ったのか顔を顰める。
「ごめんな。母さんのことちゃんと話さないで」
俺は首を振った。
「ごめんな」
何度も謝りながら、成澤さんは俺の背中を撫で続けてくれた。
気分が悪くなった俺を休ませるため、俺の家よりも近い、成澤さんの自宅マンションに寄ることになった。
成澤さんの自宅は、まるで以前行ったパーティー会場のような豪華なマンションの最上階だった。
俺はまだ少し吐き気がするので、リビングの大きなソファベッドに横たわらせてもらい目を閉じた。
成澤さんが濡れたタオルを俺の額に乗せる。
「ごめんな」
彼は何度目か分からない謝罪を口にした。
「……違ってたらごめん。もしかして成澤さんが襲ったオメガって」
「母だよ」
そう告げる声は成澤さんの声は平坦だった。
「母は昔から発情期の香りが強い体質で……嗅いだから分かるだろう?それにひと月に二度も発情期がきたりして安定しないんだ。父と結婚して番になって、あれでもだいぶ落ち着いたんだけどね。抑制剤を飲んで、ヒートの症状は治っても、香りのきつさは変わらなくて、母は結婚前は窓のない座敷牢で生活していたらしい」
「だから成澤さんの実家はあんなに広いの?」
成澤さんは頷いた。
「ああ。母は発情期中はもちろん家に籠っているんだけど、窓を開けたりするとどうしても匂いが漏れるし」
「そう」
「軽蔑した?母親を襲った俺のこと」
俺は上半身を起こし首を振った。
「しない」
通常自分の親がオメガの場合、子供は発情期の香りに安心しても興奮することは少ない。しかし親を襲う可能性がゼロではないため、発情期のオメガは部屋に籠るのが普通だ。
逆にいうと発情期中のオメガであっても、部屋の扉で遮られるほどの香りしかしない。
しかし、成澤さんのお義母さんの香りは違った。
玄関に入った瞬間、オメガの俺でさえ甘く熟れた香りに鼻の粘膜まで犯されたような気持ちになった。
あんな特異な香りに抗えるアルファは少ないだろう。
それも精通を迎えたばかりであれば、自分の欲望を抑え込むのはなおのこと難しかったはずだ。
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