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第21話

「俺、最低だよな。母親のことを話したら瑞樹に気持ち悪がられると思った。このまま黙っておくわけにはいかないことは分かっていた。でも自分から打ち明けて、瑞樹に軽蔑される勇気もなかった。だから瑞樹がトイレを貸して欲しいって言った時、試したんだ。母親の香りに気付いて、俺の過去を知った時、瑞樹はどうするだろうって。なあ、こんな俺とでも結婚したいと思うか?」  投げやりにそう話す成澤さんは痛みを堪えるような表情をしていた。俺はそんな成澤さんをぎゅっと抱きしめた。 「俺、成澤さんを軽蔑したりしないよ。実際あのお義母さんの香りを嗅いでよく分かった。成澤さんとお義母さんの間に起こったことが本当に不幸な事故だったんだって。ねえ、成澤さんこそ本当に俺でいいの?アルファじゃない。綺麗でも、可愛くもない。お義母さんみたいに甘い香りもしないただのオメガの俺でいい?」 「瑞樹がいいよ」  成澤さんは泣きそうな顔で笑い、そう呟くと、俺自身の香りを確かめるように耳元に鼻を押し付け深く息を吸い込んだ。  俺はその感触に体を震わせる。  成澤さんがくすりと笑うのが分かった。  一旦体を離すと成澤さんは真剣な目で俺を見つめた。  ゆっくりと顔が近づき、俺達は唇を重ねた。  香りはないのに、甘いキスだった。

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