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第22話

 それから一週間後、早めに挨拶をしたいと、今度は成澤さんが俺の実家にやってきた。  母は俺がプロポーズをされたことを聞いてそれこそ狂喜乱舞で成澤さんを迎え、普段は寡黙な父もいつになく饒舌だった。  テーブルに載りきらないほどの母の手料理を成澤さんは好き嫌いも見せず、全て美味しい美味しいと平らげていった。  食事もひと段落した頃、一緒に飲もうと父がウイスキーのボトルを持ち出し、俺と母はビールを飲むことにした。 「正直ね。瑞樹が産まれてオメガだと分かった時はどうしようかと思いましたよ」  酔った父が突然そんなことを話し始めた。 「私も家内もベータで、オメガの瑞樹の苦労とか気持ちとかちゃんと分かってやれるのかって」  そう言いながら、手酌でボトルからウイスキーを注ぐ。成澤さんが「自分がやります」とボトルに触れたが、父は「自分でやった方が気楽だから」と断った。 「ただね。オメガは抑制剤で金がかかるっていうのは聞いていたから、家内と子供は瑞樹一人にしようと決めたんです」 「あなた酔ってるでしょう。ほどほどにしないと、成澤さん困っちゃうじゃない」  俺は初めて聞く話に、驚いていた。母はうちの内情を語り始めた父を睨みつけている。 「まあ、今日くらいいいじゃないか。それでね、成澤さん。瑞樹にはなるべく苦労をさせたくなかった。オメガだと馬鹿にされたり、意にそわない暴力を振るわれたり、そんなことはないようにとずっとそう思いながら育ててきたんです。瑞樹が就職すると言った時は不安でしたよ。うちの職場にもオメガの若い女の子がいますけど、発情期やらで苦労してますからね。就職がダメになったのは瑞樹としては辛かったんだろうけれど、私は成澤さんみたいな立派な方に嫁ぐことができて結果的に良かったと思ってるんです」  そこまで話すと、父はグラスを置いて成澤さんに頭を下げた。 「成澤さん、どうか瑞樹のことよろしくお願いします。こいつは素直じゃないけど、思いやりに溢れた良い子なんです」 「お義父さん。顔を上げてください。分かりましたから」  成澤さんがあたふたとするのを見て、母はまなじりを決して、父に怒鳴った。 「もうこの酔っ払い。成澤さんすみません。ほら、お布団行くわよ」 「いや、もう一杯」  ぶつぶつ呟く父を母が寝室まで連れて行った。

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