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第25話

 考え事をしていた俺は貴一さんより遅れてしまい、いつの間にか少し後ろを歩いていた。  貴一さんはそんな俺に歩幅を合わせ、手を繋いでくる。  俺が顔を上げると、彼はにっこり微笑んだ。  本当はこうして外で貴一さんと手を繋いで歩くのは苦手だった。  俺はオメガには見えないし、彼に相応しいとも思えない。すれ違う人に変に思われるんじゃないかと心配だった。  でも貴一さんは何処でだろうと俺の肩や腰を抱いたり、体を寄せたがった。  本当は寂しがりなのかもな。  俺は貴一さんのそんな態度を見てそう思っていた。 「ねえ、貴一さんの好きなタイプってどんな人?」  綺麗なアルファの女性とすれ違う際、俺が隣に居るのにお構いなしに、貴一さんにウインクしたのに腹がたち、つい尋ねた。 「ん?タイプねえ」 「今までどんな子と付き合ってきたの?」  自分で聞いておきながら、過去の貴一さんの交際相手を勝手に想像してしまい落ち込んだ。 「見た目はあんまりこだわらなかったかな。どちらかというと香りで選んでたし」 「甘い香りのする子ってこと?」  低い声が出てしまう。自分で言って傷つくなんて世話がない。  貴一さんは困ったように笑うと、俺の耳元に唇を寄せた。 「今はラベンダーの香りのする年下のオメガに夢中だけどね」  俺は赤い顔で貴一さんを睨みつけた。 「調子のいいこと言ってる」 「本当のことだよ」  貴一さんは俺の肩を抱き、声をたてて笑った。    俺の両親、貴一さんの両親共に俺達の早い結婚を望んだことから、その三か月後には俺は教会で貴一さんから誓いのキスを受けていた。  結婚式の日、貴一さんのお義母さんはヒートになってしまい、お義父さんだけの出席となった。  披露宴はテレビで見たことのある政治家が何人も貴一さんに挨拶にやってきて、俺は緊張で笑顔が引きつりっぱなしだった。 「俺のことだけ見ていればいいよ」  貴一さんは簡単にそう言うが、そんなわけにいかない。  とりあえず大学で四年間学んだ礼儀作法は、無駄じゃなかったと実感した一日だった。

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