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第26話

 その夜、式場ホテルのスイートルームに俺達はいた。  明日から一週間、俺と貴一さんはドイツにハネムーンに出かける予定だった。 「先に使って」と言われ、シャワーを浴びると俺は馬鹿でかいベッドにバスローブ姿で横になった。  式の間中、緊張しっぱなしだったせいで疲れきっていて、今にも瞼が落ちてしまいそうだった。  でもそんなわけにいかない。  俺はまだ貴一さんとセックスをしていなかった。  貴一さんが籍を入れるまでそういうことはしないでおこうと言ったからだ。  昨日婚姻届けは役所に提出したし、今晩初夜を迎えれば俺は名実共に貴一さんの嫁になるのだ。  薬指に光る貴一さんとお揃いのシルバーリングを見てうっとりとする。  浴室から貴一さんのシャワーを浴びる音が聞こえる。  ちょっとだけ。  目を閉じるとあっという間に意識が闇に溶けた。  ぱちりと目を開くと、体が妙に締めつけられていた。  首を動かすと、すぐ隣に整った顔がある。  俺は抱き枕みたいに、貴一さんに抱きしめられて寝ていたらしい。  カーテンを閉め忘れたようで、朝の光で部屋は明るかった。  俺、寝ちゃったんだ。最低。  ふうと息を吐くと妙に熱っぽい。  まさかヒートがくるのか。  予定日は二週間後だったのにと俺は唇を噛んだ。  隣に寝ている貴一さんの香りを意識すると、直ぐに俺の体が昂ぶり始める。 「薬、飲まなきゃ」  今日から旅行の予定なのに、抑制剤足りるかな。  そんなことを考えながら、貴一さんの腕の中から抜け出ようとした。  逆にぎゅっと抱え込まれ、振り向くと貴一さんが目をあけていた。 「おはよう」 「おはよう。ごめん、ちょっとヒートがきたみたいで、薬飲む」 「謝ることじゃないだろ。きついか?」  抱きしめられているせいで、俺の体の変化に貴一さんは気付いたようだった。  抑制剤を取りに行かなきゃ。  理性はそう叫んでるのに、貴一さんの体がこんなすぐ傍にある状態では駄目だった。  抱きつき、額を固い胸板に押し付けた。

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