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第34話

 唇を離すと、貴一さんは俺の首輪付近に何度も口づけし、うなじの匂いを嗅いだ。  あれから俺は一度も首輪を外していなかった。  もし他のアルファが瑞樹の香りに惹かれたりしたら嫌だから、必ず身に着けていてくれと貴一さんに頼まれていた。  俺の着けている首輪はうなじから香るフェロモンを抑える効果もあるらしい。  もとから香りの薄い体質の俺は、こんなものしなくても問題ないとは思うのだが、貴一さんがどうしてもと頼むので言われた通りにしていた。 「瑞樹。いい匂いが濃くなってる。もうすぐ発情期じゃないか?」  貴一さんの言葉で、そういえばそろそろだったと思い出した。  俺自身でも分からないくらいの香りを感じるのは、貴一さんがアルファだからだろうか。  貴一さんと結婚して三度目の発情期。  俺はずっと考えていることがあった。 「瑞樹。眠いのか?風呂なら俺があとで入れてやるから、寝ていいぞ」  背中から抱きしめられ、そのぬくもりについ微笑んでしまう。 「もうちょっとこのままでいて」  そう言うと、貴一さんが俺のつむじにキスを落とし、抱きしめる腕に力を込めた。  俺は目を閉じると、嗅ぎなれた森の香りを胸いっぱいに吸い込み、ほうっと息を吐いた。  翌日は朝から体がだるかった。  貴一さんは早めに帰るけれど、我慢できなくなったらいつでも連絡して欲しいと言い、心配そうな表情で会社に向かった。  俺は熱っぽい体で、自分のいつも使っているウエストバッグを漁ると薬の袋を取り出した。  リビングの椅子に座り、ため息をつくと目を閉じる。 「瑞樹。大丈夫か?」  珍しく焦った貴一さんの声が聞こえた。  寝室に飛び込んできて、ベッドの上にいる俺を見るとほっとした表情をする。 「抑制剤飲んだ?」  首を振ると、貴一さんが持っていたビニール袋をがさりと置いた。 「これから飲むなら、先に何か食べた方が胃に負担が少ない」  袋の中を覗くと、ゼリータイプの飲料やアイス。  どれも俺の好きなレモン味で、俺は微笑むと上半身を起こし貴一さんに寄りかかった。 「ありがとう」 「俺も抑制剤飲んでおくな」  俺から香る匂いのせいか、貴一さんが顔を赤くして、ベッドから降りる。 「待って」  俺は貴一さんの手首を掴んだ。

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