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第41話

「瑞樹ちゃん。もしかして貴一ってけちなの?あなたの買い物に文句つけたりするの?だったら私が、がつんと言ってあげる。お義父さんのブラックカードを使ったっていいんだし」 「いえ、まさか。逆です。貴一さん、俺に毎日のように花だのピアスだのプレゼントしてくれてます。でも僕としてはもったいないし、部屋に物が溢れちゃうから止めて欲しいんですけどね」 「あら、惚れたオメガの為に、アルファが尽くすなんて当たり前のことじゃない」  お義母さんはそう言って、澄まして紅茶を飲んだ。  俺は曖昧に笑うと、ハーブティーのカップに手を伸ばした。その手首には以前のスポーツタイプとは異なるシルバーの腕時計が嵌っている。  これも貴一さんからのプレゼントだった。  貴一さんは「愛している」とは言ってくれないが、十分尽くしてくれているとは思う。しかしそれが自分の子を孕んだ相手に対する、義務感だけかもしれないと思うと辛かった。  その時、俺のスマホが震えた。 「あっ、貴一さん、デパートについたみたいです」  メールに目を通し、俺は言った。 「そう、じゃあ行きましょうか」  お義母さんが立ちあがった。  今日はこれから貴一さんとお義母さんと三人で、近くのホテルのレストランに向かい、食事をする予定だった。  お義父さんは今出張中で、来られないのを残念がっていたとお義母さんが言っていた。  デパートの正面玄関に向かって歩いていると、お義母さんが突然蹲る。  駆け寄ると、あの脳まで痺れそうなほどの甘い匂いが鼻をついた。  ヒートだ。  俺は妊娠中でヒートがこないから、抑制剤の持ち合わせがなかった。  慌てて辺りを見回す。  こういう大きなデパートならヒートになったオメガが逃げ込める緊急避難用の部屋があるはずだった。  一人の男がふらりと近寄って、お義母さんを押し倒す。 「いやっ」 「やめろ」  お義母さんの拒絶の言葉と、俺の抑止の言葉が重なった  俺は男をお義母さんから引き剥がそうとした。  男がそんな俺に向かって腕を振り上げる。

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