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第49話

「大丈夫かい?すぐ抑制剤を持ってくるからな」  俺は勝手に昂る体が辛くて、言葉を発することもできずに頷いた。  さすがお義母さんの強い匂いに慣れているからか、お義父さんは発情した俺の傍に来ても、我を忘れるなんてことはなかった。 「あなた、ごめんなさい。私の分も抑制剤をお願い」  お義母さんがそう言った瞬間、甘い香りがぶわりと漂った。 「雛菊(ヒナギク)」  お義父さんがお義母さんの名前を呼び、俺の肩に置いた手に力をこめる。 「瑞樹っ」  声をした方に顔を向けると、貴一さんがリビングの入口に立っていた。 「来ちゃダメ」  俺はそう言って首を振った。  なんでこんなタイミングで。  体は愛しい番のアルファを求めていたが、それ以上にその番が実の母親のヒートにあてられているところなど  見たくなかった。  きっと貴一さんは俺よりお義母さんの香りを求めてしまう。  俺が絶望しながら目を閉じた瞬間、嗅ぎなれた香りに包まれた。 「あんたのオメガはそっちだろ?」  低い威嚇するような声が聞こえて、目を開けると、貴一さんに抱きすくめられていた。 「息子の嫁に手を出すつもりなどない」  心外だという表情でお義父さんが言い、食器棚の引き出しから注射器型の抑制剤を取り出した。  こちらに放り投げると、貴一さんは片手でそれをキャッチした。口でキャップを外し、自分の首に打つ。 「俺も……俺にも抑制剤ちょうだい」  そうでもしないと、お義母さんとお義父さんの見ている前で、今すぐ貴一さんをはしたなく欲しがってしまいそうだった。  久々のヒートはそれほどに強烈だった。 「だぁめ。瑞樹はこれから俺にぐずぐずのとろとろにされるんだから。抑制剤なんてそんな無粋な物使うわけない」  貴一さんが俺の耳朶を噛む。 「なあ、俺のこと欲しいだろ?」  そう耳もとで囁かれ、俺の体が震えた。 「欲し……」  貴一さんの唇に噛みつきそうになった瞬間、ここがどこなのか周りに誰がいるかを思い出し、必死に貴一さんと距離をとろうとした。

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