49 / 60
第49話
「大丈夫かい?すぐ抑制剤を持ってくるからな」
俺は勝手に昂る体が辛くて、言葉を発することもできずに頷いた。
さすがお義母さんの強い匂いに慣れているからか、お義父さんは発情した俺の傍に来ても、我を忘れるなんてことはなかった。
「あなた、ごめんなさい。私の分も抑制剤をお願い」
お義母さんがそう言った瞬間、甘い香りがぶわりと漂った。
「雛菊(ヒナギク)」
お義父さんがお義母さんの名前を呼び、俺の肩に置いた手に力をこめる。
「瑞樹っ」
声をした方に顔を向けると、貴一さんがリビングの入口に立っていた。
「来ちゃダメ」
俺はそう言って首を振った。
なんでこんなタイミングで。
体は愛しい番のアルファを求めていたが、それ以上にその番が実の母親のヒートにあてられているところなど
見たくなかった。
きっと貴一さんは俺よりお義母さんの香りを求めてしまう。
俺が絶望しながら目を閉じた瞬間、嗅ぎなれた香りに包まれた。
「あんたのオメガはそっちだろ?」
低い威嚇するような声が聞こえて、目を開けると、貴一さんに抱きすくめられていた。
「息子の嫁に手を出すつもりなどない」
心外だという表情でお義父さんが言い、食器棚の引き出しから注射器型の抑制剤を取り出した。
こちらに放り投げると、貴一さんは片手でそれをキャッチした。口でキャップを外し、自分の首に打つ。
「俺も……俺にも抑制剤ちょうだい」
そうでもしないと、お義母さんとお義父さんの見ている前で、今すぐ貴一さんをはしたなく欲しがってしまいそうだった。
久々のヒートはそれほどに強烈だった。
「だぁめ。瑞樹はこれから俺にぐずぐずのとろとろにされるんだから。抑制剤なんてそんな無粋な物使うわけない」
貴一さんが俺の耳朶を噛む。
「なあ、俺のこと欲しいだろ?」
そう耳もとで囁かれ、俺の体が震えた。
「欲し……」
貴一さんの唇に噛みつきそうになった瞬間、ここがどこなのか周りに誰がいるかを思い出し、必死に貴一さんと距離をとろうとした。
ともだちにシェアしよう!