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第2話

 接点が持てる……とは思ってもいなかった。  オレ、三船司(みふねつかさ)は新入社員で、部長である佐伯和真(さえきかずま)は早期出世を果たしたエリートだったからだ。多人数の働くこの会社で、直接的な関わりはないと言ってもいい。  だから、部長は遠目に見て憧れる存在であり、ただそれだけの存在だった。  先輩に資料を取ってこいと言われてしまえば、はいと二つ返事で応えるしかないオレは、資料室へと小走りに飛び込んだ。  小林先輩は悪い人ではなかったが、どちらかと言えばちょっとしたことで怒りやすい人だった。速やかに資料を揃えて持って帰らないと、また何か言われかねない。 「   あっ」  慌てて飛び込んだ先、廊下からの照明が届く位置に立つすらりとしたスーツ姿の男に思わず背筋が伸びた。 「あのっ……お疲れ様です」  一瞬の間があり、それから「ああ」とだけ返事が返る。 「でん 電気、つけても」 「ああ。そうだな」  部長の立っている場所はドアのすりガラスを通った明かりで十分明るかったが、オレの探す資料は奥にある為に電気をつける必要があった。 「 あの  資料探しなら手伝……」 「いや、結構だ」  興味なさげにオレから視線を外した部長は、筋張った指を伸ばしてファイルを一つ取り出す。  オレの方に意識が向いていないと言うのは分かってはいたが、一礼してからスチール棚の間を抜けて奥へと向かった。  何箱か積まれた目の前の段ボールを覗き込む。小林先輩がオレに取ってくるようにと言いつけた資料がこのどれかに入っているはずだ。  屈みこんで中を漁る。  もう少し分類してファイルにでも入れておけば楽なのにと愚痴りながら幾つかの用紙の束を取り出す。

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