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第3話

「あと一つ……どこだ?早く持っていかないとまた怒鳴られるのに……」  手の中の束を数えて再び段ボールに視線を落とす。 「   全てこんな状態なのか?」  ヒッと喉の奥から漏れそうになった悲鳴は何とか飲み込めたが、ぺたんと尻もちを突くのは防げなかった。  資料室の薄暗い灯りを背負った部長は、逆光のせいもあるのか圧し掛かるような重圧をこちらに投げかけてくる。 「っ  し、資料ですか?」 「年代も、系統もバラバラじゃないか」  そう言ったつもりはないのかもしれないが、部長の声が低く朗々としているせいかオレには飛び上がるほど威圧的に思えた。 「そう、ですね」 「そこの箱の中身もそうなのか?」  オレ自身悪い所もやましい所も無い筈なのに、体中から冷や汗が噴き出すのが分かる。  干上がってしまった喉ではろくろく返事もできなかったので、肯定の為に首を何度も上下に振った。 「そうか、管理部もいい加減だな」 「す、すみません……」 「管理部なのか?」  反射的に出た言葉で、管理部じゃないオレが謝った所で意味がないのは百も承知だ。  部長の視線が社員証に移るのが分かり、所属部署を確認したのが分かった。  呆れ……と言うよりは侮蔑のそれに、冷や汗で冷たくなった拳が震える。  おろおろと下げた視界の中の艶のある革靴がふいと消え、カツカツとリノリウムの床を鳴らす。その足音にほっと息を吐こうとした時、規則正しい足音が乱れた。  何事かと顔を上げたオレの射る目に、吐き出そうとした息が止まった。  日本人にしては彫のはっきりとした顔立ち、深い色をした双眸の力は遠目に見ていた時には気付かなかった鋭さだ。 「なに、か ?」  きつい眼光は若くして部長になったのを分からせるには十分だ。 「  そうだ」 「?」 「―――『gender free』 だったか」  ひくりと震えた膝から力が抜け、オレは再びぺたんと床に膝を突いた。

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