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第8話

 小さい呼吸を繰り返す。  お互いに声を掛けあう事すらなく、果てた後の気だるい気持ちよさにぼんやりとした痺れを感じていた。  ~~  ~~  ~~  サイドテーブルから聞こえた振動音に、冷水を浴びせかけられたような気分になった。  さっとその音の元と部長を交互に見やったが、部長がオレの方を見る事はない。  「待って下さい」の言葉が口から出る前に、先程までオレを押さえつけていた手が伸びて鳴り続ける携帯電話を取り上げる。 「  はい」  そう言った部長の口元が……綻んだ。  胸が詰まり、呼吸が止まった。  多分顔色は紅潮の赤から一気に青ざめただろうが、部長はそんなオレには一切視線を向けない。  ただ普段の厳しい表情からは考えもできない程、柔らかな優しい笑みを口の端に乗せ、幸せそうに質問を繰り返している。 「宿題は終わったのか?」 「夕飯は?」 「風呂は?」 「いい子にしていたか?」 「お土産は?」  一つ一つ丁寧に確認していくさまは、本当にただの子煩悩な父親だ。  自分には向けられた事のないその表情に息の根を止められそうな気持になり、オレはのそのそと部長の下からはい出る。  嬉しそうに子供と会話をする部長のモノが抜け出る瞬間の、どうしようもない程の空虚さを感じて流れ出しそうな涙を堪えるためにぐっと目を閉じた。  しかしそれで部長の声が途絶えるわけでもなく……  どうやら電話の相手が奥さんに変わったらしく、先程の声音よりはやや硬い声が耳を打った。  ベッド下に脱ぎ散らかした服を手早く身に着け、見ていないとは承知で頭を下げてその部屋を出る。  すぐ隣の部屋へ入ると部屋の奥まで行く気力が続かず、その場にぺたんと尻を突いた。 「…………」  先程までの情事が嘘のように体は冷め切り、散々泣かされたせいか頬が引きつる。

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