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第11話
ガタッと先輩が飛び上がり、オレの目から溢れた涙を掌でキャッチする。
「あ。いや、おい…ちがっ なんでだよ!」
掌で形を崩した液体に小林先輩があたふたと辺りを見渡した。
「なん、なんなんだよ!」
デスク上のティッシュの箱を見つけると乱暴な手つきで数枚引き抜き、思いの他丁寧な手つきで頬の涙を拭ってくれる。
普段の態度を考えると、もっとぶっきらぼうに小突かれて突き放されるかと思っていたのに、予想外の行動にまた目の縁に涙が盛り上がる。
「すみ すみませ んっ」
「はぁ?」
しゃくりを上げながら謝罪すると、今度は乱暴にティッシュを丸めてゴミ箱へと投げつけた。
「俺が泣かしたんだろうが」
言われ、小林先輩はきっかけであって原因ではないと首を振ろうとした瞬間、かちゃりと静かな音がしてオフィスの扉が開いた。
もうオレ達以外には誰もいないと思っていたのは入ってきた人物もそうだったらしく、こちらを向いてハッと動きを止める。
「まだ残っていたのか」
「部長……お疲れ様です」
頭を下げる小林先輩に倣い頭を下げるが、しゃくりを押し殺すせいで言葉を出すことができなかった。
それを不審に思われたのか、部長の足音がこちらに向かってくる。
「何か問題があったのか?」
「あっ これは」
迷い、涙が乾いていると信じて顔を上げた。
「……っ」
目の周りがひんやりすると言うことは、涙が出たことをごまかせていないと言うことで……
「なん なんでもないんです」
ひくりと口の端が引き攣る。
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