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第13話
「…………」
「…………」
オレ自身のことだったけれど、傍にいた小林先輩の方が取り乱していたんじゃないかと思う。
表面上は。
「なんで……こんな時期に、こんな異動……」
そんなことはオレ自身が聞きたい。
壁に貼られた部署異動の通達は、周りの反応を見ても異例なのがありありと見て取れる。
業務を覚え、やっと慣れてきた時期だ。
これから順次、他部署の仕事を経験していくのが順当とされているはずだった。
多分、オレはかなり蒼白な顔になっていたんだと思う。
こちらを見た小林先輩がぎょっとなって肩を掴んだ。
「あったかい物でもおごってやる」
「 え、あ、でも、 オレ……」
肩を抱かれてふらふらと促されたはいいが、頭の中は混乱してそれどころじゃない。
「とりあえず落ち着け」
足を止めそうになったオレの肩を強く叩いてそう言うが、それは小林先輩が自分自身にも言い聞かせていたのかもしれない。
これを飲めと、両手に持たされたのはホットココアだ。
気づかない間に指先が冷えていたようで、手の中の熱は飛び上がりそうなくらい熱い。
「あ の、これって左遷とか、そう言う 」
異動の貼り紙に素っ気なく印刷されていた「経営企画」の文字にぶるりと悪寒が走る。
「や、普通。あそこに異動は……」
経験も積んでいない、ましてや仕事の要領がいいとは言い難い自分が配属される場所ではない。
「ちょっと待ってろ、間違いじゃないか聞いてきてやるから」
ココアを握ったままの両手をぎゅっと掴んでから、小林先輩は休憩室を出て行った。
まだ使われるには早い時間のせいか、一気に静まり返ったそこは今までいた会社とは別次元のようで、縋るように手の中の温もりを頬につけた。
頬が温まり、いろいろなものが緩んで涙が出そうだった。
ず……と鼻を啜ってココアの蓋を開ける。ふわりと香ってくる甘ったるい匂いを嗅いで、深く深呼吸する。
「ここにいたのか」
ひっと声を上げてココアを取り落としそうになったのを寸でで堪え、四度目に目の前に立った部長を見上げた。
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