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第14話
小さいオレからしてみたら、のしかかるように感じるほど身長差があると思う。
鋭い目元は、オオカミのようだ。
「あ あの、」
「お前を迎えに来た」
地獄の使者かな……と考える余裕があったのは事実だった。
「辞令書が貼ってあっただろう」
「は、はい。見ました ……でも」
あれは間違いだったんでしょうと問う前に、休憩室に小林先輩が飛び込んできて問いかける返事は口から出すことができなかった。
「三船!さっきの辞令っ あっ!!」
その背中だけで誰だかわかったのか、小林先輩はさっと顔色を変えて起立する。
無言のままの部長とオレをちらちらと見て、気まずそうに視線を下げてしまう。
「君は今日から総務から企画経営に移ってもらう」
それはおかしい!そう言おうとした言葉が出ず、あぅあぅと呻くような声だけが転がる。
「佐伯部長、失礼ですが、三船が部長の課に異動になったことに納得が……」
意を決したように声を上げた小林先輩に視線をちらりとやると、低い抑揚のない声で「決定事項だ」と返された。
「 ど、どんくさい奴なんです!そんなところに行ってやっていけるとは思えません!」
酷い言われようだったが、高学歴でもなければ海外職務歴や誇れる実務経験、堪能な語学能力やコミュニケーション能力があるわけではない。
教えられたことを飲み込んでこなすのに日々手一杯な凡庸な人間なのには間違いなかった。
能力が乞われたと言うにはあまりにも自分は役者不足だ。
小林先輩にまっすぐに睨まれた部長が、冗談だと返してくれることを願ったが、返ってきた言葉は全く違うものだった。
「私の下についてもらう。時間がない、行くぞ」
否も応もなかった。
小林先輩は押しやられ、オレはさっきみたいに肩を抱かれて引きずられるようにして休憩室から出ることになった。
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