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第15話
同じ社内のはずなのに、その扉を潜るには専用のカードキーがいるのだと、自分のカードを手渡されながら説明された。
馴染まないそれを社員証の裏に入れようと立ち止まろうとしたが、部長はそんなオレに構うことなくスタスタとデスクを抜けて自分の椅子へと座ってしまった。
急いで駆け寄ろうとする間、物理的痛みを伴わないちくりちくりとした視線が方々からオレに突き刺さり、居心地は最悪だ。
「あの……」
「各自、通知は見てあるな」
腹から響く太く大きな声に飛び上がった。
声が聞こえた瞬間、デスクに向かっていた人達が立ち上がり、先程の視線より幾分不躾な様子でこちらを見てくる。
衆人環視のその視線に耐え切れず、赤くなった顔を隠すようにとっさに俯いた。
「三船司くんだ、仲良くするように」
「よ、よろしく、 お願いしま……っ」
カチンと歯が鳴り、語尾が出ずに消えてしまった。
噛んでしまった舌先が、クスクスと聞こえてきた小さな笑いに後押しされてじくじくと痛む。
口の中に広がる鉄の味に、泣きそうだ。
「今回の異動は三船一人だけなので辞令交付式は行わない」
「は、はい」
オレたった一人?
そんな人事があるのか?
明らかにこちらを格下と認定した人間の視線に耐えながら、もう一度深く頭を下げた。
小林先輩がデスクを片付けてくれたらしい。この部署のオフィスに入ってきてもらうわけにもいかないので、エレベーター前で待っていると段ボールを抱えて、しかめ面をしている小林先輩が下りてきた。
「わざわざすみません」
謝罪して手を伸ばすが、小林先輩は辺りをきょろきょろしているせいか手に気づいてもらえない。
「 どうよ、ここ」
人は周りにいないのに、声は潜められ口元も隠されている。
何をそんなに警戒しているんだろう?
「あー……皆さん、すごく仕事ができる人って感じがします……が」
「が?」
人間味に薄いですと言おうとした言葉を飲み込む。
「ええと……すごいと思います」
「すごいしか言ってないぞ」
突っ込まれ、頬を突かれて……でもそんなやり取りが懐かしい。
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