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第17話
「あの日、お前を泣かしていたやつだろ?」
「え!?」
こちらを見下ろした部長の表情はもう笑みではなかったが、男前だと顔が熱くなるのがわかる。
「 あれは、そういうのではない、です」
赤みを知られないように顔を伏せると、「そうか」とぽつりと返された。
「な、なんだかんだ、面倒見のいい人なので 」
「そのようだな」
手の中の段ボール。
本来なら内示があって準備もできただろうに、急に連れ出されてデスク回りを片付けることもできなかった。
「行くぞ」
促され、小林先輩が乗り込んだエレベーターにちらりと視線をやってから部長の後を慌てて追いかけた。
部長の考えがわからない。
喜怒哀楽はあるとは思うのだが、しばらく下について共に行動していてもよくわからない。
……と、言うよりは隙が無くて人間味を感じない。
そう、そういう方がしっくりくる人だった。
「──ここを」
「はい」
画面を指さす爪先は綺麗に整えられている。
きつい横顔は、冗談の一つも言うのだろうかと思わせる硬いもので……
「どうした?」
「いえ、何も」
けれど人をよく見ていると思う。
メモを取る手が迷えば、次を言う前にそこで話を止めて待っていてくれたりする。
優しいか、優しくないかで言えば……優しい人、だと思う。
現に今も退社時間を延ばしてオレに付き合ってくれている。
「……今度、出張に同行してもらう」
「 は!?え!?」
オレ自身が、オレを連れて行ってなんの役に立つんだと思っていたのがばれたらしい。
珍しく溜め息らしい溜め息を吐いて椅子の背もたれに体重を預けた。
「自己評価が低すぎる」
オレに向けてというよりはぼやきに近い。
そうは言われても、自分の性指向を認識してから自分に自信なんて持てたことがなかった。
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