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第19話

 後ろを付いていくのは大変だったが、顔を上げると部長の姿が見えると言う部分がご褒美だった。  スーツが似合っている。  怖い無表情。  でも、意外と優しい。  声が低くてよく響く。  あと、手が温かい。  そっと自分で頭を撫でてはみるが、あの日の再現は無理だった。 「がんばれば、また  」  撫でてもらえるだろうか?  きゅうっと息が詰まって、胸を抑えた。  盗み見る部長の横顔に、跳ねた心臓の音がうるさい。  けれど部長とどうこうと言った関係になりたいと思わないのは、鞄を持っている左手の指輪のおかげだ。   「どうした?」 「いえ!何でもないです!」  噛まずにはっきりそう返すと、部長は唇の右端をちょっと動かしてこちらを振り返った。 「いい意気込みだ」  その動きが笑みだということを何人が知っているんだろう?  自分だけがそうならと、思うのはおこがましいことなんだろうか……  

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