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第20話
革靴での長時間の歩きにはいまだ慣れない。
少しでも早く靴を放り投げて、もういっそのことどこかの公園のベンチででも倒れこみたい気分だった。
けれど散歩に連れていかれる犬の気分で、ただただ部長の後を付いて回っただけのオレは、疲れたなんて口が裂けても言えない立場で……
仕事のやり取りは終わったはずなのに、食べた気にならない夕食にその後の酒に……人と接するのが苦手なせいか、顔の筋肉が引き攣りそうだった。
先方が二件目の接待場所へと促した時、部長の目がちらりとオレの足元を見ていたのが分かった。
「申し訳ない、お話が面白くて飲みすぎてしまったようです。また次回の楽しみにさせてください」
たぶん……二件目を断ってくれたのは、隠しきれなかった足の痛みのせいだと思う。
「部屋まで上司と一緒だと、休むものも休めないな」
珍しく苦笑の色のある声は、オレにと言うより自分自身にと言う風だ。
「 え、と。なんかのライブと重なったとかで、取れなかったそうです」
そう言うと、「そうか」とそっけない返事が返ってくる。
「……すみません」
チーム付き秘書の手配だったが、ついていくオレ自身がもう少し探しておくべきだった。
出張に舞い上がったのか下がったのか、ただただ準備に夢中でそのことにまで気が回らなかった。
「 あの、オレ ネカフェとか探してみます」
「何を言っている」
シュッと滑らかな音をさせてネクタイを抜き取った部長は、オレの言葉が意味不明だと言いたげな感じだ。
「 そ の方が、部長もよく休めるかな、と」
部長はオレが男と揉めているのを見たことがあるはずで……
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