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第26話
急速に冷めてしまった体の熱は、思考を取り戻させるのには十分だったようで、
「 酔っていたようだ」
常套句。
けれど、部長には似合わないと思った。
「 」
「然るべき手段をとってくれて構わない」
オレの体の上を彷徨う視線に促されて、慌ててティッシュで液体を拭い取ると小さく首を振る。
「相応の償いは 」
「 オレが、酔って い、 いたんです」
弄られてじんじんと痺れを訴える胸を隠し、乱された下半身も隠し、痕跡をすべて隠してから頭を下げた。
「オレが 酔って、ぶ 部長を、誘惑、したんです」
つまらない言葉に耳が赤くなる。
誘惑なんてものは誘って釣られたくなる魅力のある人間が使う言葉だ。
「何を言っている」
「部長も、酔って……ま、間違えた、だけです」
何が間違えだったのかなんてのは、何でもいい。
男と女の体を間違えるなんてことはないし、間違えていないと言うのも百も承知だ。
「それだけです」
はっきり言えるなんて思わなかったが、会話の打ち切りの言葉としては大きかった。
部長は何も答えず、サイドテーブルの上の缶ビールを取って口をつける。
その際に、小さくカチンと響いた金属音の正体を知っている。
部長が家庭を持っているのを知っている。
部長が女性を愛せるのを知っている。
部長がオレのことなんかなんとも思っていないのも知っている。
部長が、オレにしたことが間違いだったことも、ちゃんと知っているんだ。
「 す みません。こちらの、ベッドを借ります」
手を突いた部分は、オレの汗で湿気っている。
それに気づかないようにして、冷たいベッドに頭まで潜り込む。
背を向けた方から、また金属音が小さく聞こえた。
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