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第28話

 資料室に立ち寄った時に、棚の間から小林先輩を見かけて声をかけた。 「先輩、お疲れ様です」 「お。久しぶりだな」  上着を脱いで腕まくりして、ネクタイは邪魔にならないようにワイシャツのポケットに突っ込まれている。 「 ど どうしたんですか?」 「いや、なんか知らんが、片付けに駆り出されてる」  どさりと棚の段ボールを下ろし、舞った埃に顔を盛大にしかめて見せる。 「……ここの管理は担当が……ありませんでしたっけ」 「そのはずなんだけどな。なんでだろうなぁ急になんだよ」  びぃーっと段ボールのガムテープが勢いよく剥がされ、追加とばかりにもう一度埃が舞い上がる。  うんざりとした顔に苦笑が零れた。 「そう言うお前はどうしたんだ?戻されたか?」 「ち、違いますよ!資料取りに来たんです」 「企画経営が使う資料は上じゃないのか?」 「そうなんですけど  ちょっと、他にも調べたくて……」  なんて一人前のことのように言ってはみるが、実際はまだ何もわからないままただ部長の下で動いているだけだ。 「お前、あっちで誰についてんだ?」 「え、あの、  佐伯部長に」  はぁ?と訳が分からないと言う顔をして、小林先輩はぺたんと床に腰を下ろしてしまう。  少し迷ったけれど、倣うようにして腰を下ろした。 「なんであの佐伯部長なんだよ」 「 オレが、聞きたいです 」  どうしてか、ひそりと声を小さくしてしまう。 「えぇ……チーフとかは?」 「いますよ」 「なのになんで?」 「皆さん。忙しいんじゃないでしょうか」  その他が忙しいのに部長が忙しくないわけがない。  そんなことは百も承知だし、周りの反応から部長がオレを連れて回っているのが異色なのもわかっている。 「あの、雑用、とか……させやすいからじゃ、ないですか?」 「   それなら、いいけど 」  歯切れ悪く言葉を切った小林先輩は、誰もいないのが分かっているはずなのにちらちらと周りを見渡してから、さらに声を潜めて聞いてきた。 「  お前、大丈夫か?」     どき……っとしたのは、部長について出張に行った時のことを思い出したから。 「な、にを」 「なんて言うか……昔、空気抜きのために送られて奴がいるとかなんとか、聞いちまったからさぁ」  いつもは吊り上がり気味の眉が八の字を作る。 「なんかこう、イジメとか、大丈夫かな……て」 「や……いやいやっ」  小林先輩といた時のような砕けた雰囲気はないが、そう言った意味で何かされたことはない。

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