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第31話

 ぴっと指差され、自分のことだと思い至って顔が赤らむ。 「冗談よ~。それじゃあ飲み物なんだけど      」    二、三、味の好みを聞かれている時に、背後から聞いた声が名前を呼んだ。 「  三船?」  会社ならばなんとも思わずに返事をできただろうに、振り返った先に見えた顔に呼吸が止まった。  目つきが悪いのを気にしているんだと言っていた目が、丸くなってこちらを見ている。 「小林先輩!?」  とっさに立ち上がってあわあわと頭を下げて「お疲れ様です」と言うと、先輩は慌てて椅子に座るように促してきた。 「声でかいよ」 「わ……すみません」  成り行きで隣に座られ、落ち着いてしまうと何とも言えない気まずさが落ちてくる。  オレは、自分と同じ志向の人間が出会いやすい場所と知って来た。  出会いやすいからと小林先輩がそうだとは限らない。  そう言う目的抜きでも来てもいい、雰囲気のある場所だと思う。  そして自分もそうじゃないと言って言い切れる……はず。  誤魔化しの言葉を決めて口を開いた。 「偶然、で  」 「こばやしさーん!この前お持ち帰りした子とどうだったー?」  偶然ですねの言葉が、ピンクの頭の彼に遮られて……  おしぼりを出そうとした店長の手が止まり、オレたちは気まずさに視線を逸らした。 「  もう休憩の時間じゃない?」 「ふぇ?」 「ね?  ねっ!!」  笑顔の店長に指差され、彼は腑に落ちないと言う感情を前面に出しながらもカウンターの奥にある扉の方へと消えた。  けれど沈黙は変わらず……  助けを求めるように視線をカウンターの中にやったが、店長はいつの間にやら二人の前に酒を出して遠くに行ってしまっている。    「 酒、飲むんだな」 「え?あ、 はい」 「…………」 「…………」  ひんやりとした銅のマグカップに縋りつくように手を伸ばすが、やはりそれも救いにはなってくれなかった。 「あのっ 」 「いやっそうじゃなくてっ」  やっと出そうとした言葉も途中で遮られ、仕方なしに小林先輩の方へ少し体を向ける。 「あっ  じゃなくて、その、さっきの言葉は忘れて もらえ ると……」  と、尻すぼみに消えた言葉は逆に肯定しているようなものだ。

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