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第35話

 突っぱね、はっきりと断って店を飛び出す。  そうできていたら、オレは自分で尻を弄って解すなんて事態に陥らなかったんだろう。 「 準備  を、待って、くださるなら  」  消え入りそうな声での返事に、部長は店を出るように促した。  外は寒くて、一瞬、混乱したこの頭を冷やしてくれるかとも思ったけれど、オレの頭はそれ以上に煮えたぎっていたようだ。  褒められたからか、頭を撫でられたからか、指を絡められたからか……  それとも、はっきりと「抱きたい」と言われたからか…… 「薬局に、寄らせてください」 「ああ」  会計を終えて出てきた部長の姿に、心臓が跳ねる。  表情からはこれからしようと言う淫靡さの一欠片も見つからない。  浅ましい期待と、不安で押し潰されそうだった。  知識ばかりで実践するのは初めてだった。  ローションの冷たさに泣きそうになりながら、指先を尻の窪みに沿わして滑らせる。  よくわからない感情で、涙と鼻水が溢れてみっともない状態だったけれど、幸いなことに部長が風呂場に覗きに来ることはなかった。 「正直、私自身もどうかしていると思う」  髪が濡れて額に貼りついた部長は、いつもの大人の男然とした雰囲気はなく、ただこの状況に戸惑う一人の人間だった。  気恥ずかしくて、シャツだけは羽織ったオレとは逆に、部長はスラックスだけを履いていた。  それが、これから行うことに対しての準備だと言うのに…… 「君が、ここで部屋に戻ったとしても咎める事はない」  独り言ではないはずなのに、その呟きはオレに向けられているようではない。  返事代わりに、縋れるからと羽織っていたシャツを床に落とす。  そうしてしまうとこの身を守るものは何もなくて、これからのことを期待する浅ましい体が晒されてしまって……

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