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第39話

 込み入った話でも相談できる友人が居たら、もしかしたら頭を冷ませてくれたかもしれない。  もう少しオレに恋愛経験があれば、もしかしたら踏みとどまっていたかもしれない。  ……かもしれない、の段階で、すべての後悔は遅すぎる。  ただの上司への憧れだと思っていたこの気持ちは、よりにもよって本人の手で白日の下に晒され、それが憧憬なんて言う綺麗なものではなくて、ただ腹の底に溜まった薄暗い欲望なのだと気づかされた。  胸が、苦しくて、  けれど、抱かれたのが嬉しくて、  胸が、熱くて、  でもどこか冷めた頭の片隅が、部長の立場を囁いてくる。  妻帯者だと。  思い出せと。  ただ、興味があって行われた行為にすぎないのだと。  好奇心 が、人間にはある。  それが大きいか小さいか、弱いか激しいかは人それぞれだけれども、向上心や出世欲の強い人ほど強いと聞いたことがある。  部長がそれに漏れるとは思えなかった。  つまり好奇心の強い人なのだろう。  オレを抱いたのも、物珍しかったからで…… 「河原の方と西寺の方の報告を     」  腹に響く深い声だ。  聞いていいるとその振動で気持ちよくなりそうだった。  あの散々だった出張から帰ってしまえば、部長は何も言ってくることはなかった。  好奇心が満たされたか、もしくは初めて抱いた男がこんなのだったせいで、幻滅したのかもしれない。  ただただ縋るしかできなかった夜は、嵐の一夜のようで……  夢か現実かわからない。 「    ────ふね、三船っ」  それが呼ばれることのないと思っていた自分の名前だと気が付き、大きな声で呼ばれて飛び上がった。 「 は、はぃ」  辛うじて返せた返事は、けれど部署の中で微かな笑いを増長させただけだったようだ。  こちらを見る目は冷たくて、部長がもうオレに興味がないのだと言うことがはっきりとわかった。  

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