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第40話
それでも、初めての相手と言うのはやはり特別で、普通に接して普通に話しているつもりだけれどどこかで意識してしまっているのかもしれない。
横顔を盗み見る時間が増えたと思う。
背徳的なことをしてしまった後ろめたさと、どうにも消えることのなかった憧憬に……正直、精神が削られる思いだった。
「なんかちょっと、お疲れ?」
こてんと頭を倒した拍子に揺れたピンクに目を奪われながら、差し出されたおしぼりを受け取って曖昧に頷いた。
「そうなのかな」
疲れた疲れてないかで言えば疲れ果てている。
仕事について行くのに必死で、あっと言う間に昼間が終わって気づいたら日付が変わることもざらだった。
そんな生活に、部長とのことで思い悩んで……
「雰囲気が変わられましたね、なんだか思い悩まれてます?」
人当たりのよさげな笑顔で出迎えてくれた店長に、「おまかせします」と注文して頬杖をついた。
ふぅ と知らずに漏れた溜め息に、はっとなって姿勢を正す。
学生の頃、友人に「溜め息をつくと幸せが逃げる」と聞いて以来、意識して避けていた行動だったのに、つい出てしまったようだ。
「どうぞ」
カクテルグラスで出されたそれは、深い赤色が美しい酒だった。
「綺麗な色ですね」
まるで血のような深みのある色に、光が透けて綺麗だ。
「ブラッド&サンドと言います。カクテル言葉ってご存じですか?」
「 花、言葉 みたいなものですか?」
「そう、こちらの言葉は『切なさが止まらない』です」
ふふ と含むように言われ、咄嗟に頬を覆って俯く。
切なさが止まらない?
当たらずとも遠からずなその言葉に見透かされた気がして、綺麗と思っていたカクテルの赤色をちらりと盗み見た。
「そんなお顔をされていたので」
ぱちん と完璧なウィンクを飛ばされて、やっぱり戸惑いが勝った。
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