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第41話
一目見ただけでばれてしまうような顔をしていたのだろうか?
店長ですらそうなのだから、会社の部の皆はどうだろうか?
部長を盗み見るその視線も、もしかしたらバレている可能性があるんだろうか?
ぐるぐると回り出した思考を止めるために、勢いよくカクテルグラスを掴んで飲み干す。
「だっ から、一気に飲んじゃダメですって」
「あ すみません、つい その、 」
「好みじゃなかったみたいね。ごめんなさいね、違うもの用意するわ」
申し訳なく俯いて、指先に視線を落とす。
部長に縋りついた両手……
物理的は話、性体験を経験したからオレの雰囲気が変わったんだろうか?それとも精神的な物なのか……
女性は経験すると色気が出るとか聞くこともあるけれど、それは男にも適用されるんだろうか?
もしそうだったとしての話、オレに今更色気が加わったとして、何があるわけでもないだろう。
「 あの、 」
「はい?」
他に来ていた客に声を掛けられ、一気に飲んだ無作法を咎められるのかと身構えた。
けれど客は隣の席に座り、こちらにぐぃっと近づいてきた。見も知らぬ人にパーソナルスペースを侵されるような居心地の悪さに、自然と仰け反り距離を取る。
「面白い話してたね、良かったらスクリュードライバーを奢らせてくれない?」
「え? あ、いえ、次は用意してもらってるんで」
用意すると言ってくれた店長に申し訳なくてそう断ると、目に見えてその客は肩を萎ませて席へと戻っていった。
何だったんだろうかとキョトンとしていると、苦笑が殺しきれない店長がタンブラーグラスを置く。
「断っちゃうの?」
「え、あ、 そんなに疲れているように見えたんでしょうか」
つい酒を奢りたくなるくらい、草臥れて見えたのかもしれないと、店長の苦笑を見て思った。
「は?」
「気にしてくださったのに断ってしまって、せっかく元気づけようとしてくださってたのに 」
「ちがっ 」
店長のいつもの軽やかな声よりも数段低い声にびっくりしていると、ピンクの子が来て隣に座った。
「スクリュードライバーのカクテル言葉はね、『あなたに心を奪われた』だよ」
そっと耳打ちされた言葉の意味を掴み損ねる。
レディーキラーなら聞いたことはあったけれど、いったい何のことだろうと首を傾げて見せた。
「 もぉぉぉそんなだから声かけた人全員撃沈するんだよぉぉぉぉ」
ぷくっと膨らんだ頬を突いてやりたい気分になったけれど、店長さんとの関係を思うとそれはやめておいた方がいいんだろう。
「せっかくカクテル言葉でとっかかりができてたのにぃ」
「三船さんはカクテル言葉に明るいわけじゃないんだから、ね。しょうがないでしょ」
ぐりぐりとピンク頭を力強く掻き回し、ベルの音がしたと言って背中を押した。
「あの、 あの?」
「三船さんとお話するきっかけにしたかったのよ」
困ったように言われ、そこでやっと「は?」となった。
「あー… 揶揄わないでください 」
顔が火照るのがわかる。
そんな冗談を言われて、どう対処していいのかわからない。
恥ずかしくて、スマートに返せなかったのが申し訳なくて、肩を竦めて次の酒に口をつけた。
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