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第45話
「元気ならいいんです」
そう言って目の前のビールジョッキに、ウイスキーの入ったショットグラスを放り込んだ。
「なにやってっ!?」
「ボイラーメーカーって言うカクテルらしいです」
「ビールにウィスキーって。悪酔いするぞ」
「酔わないと思います!」
そこにだけは自信があるせいか、はっきりと言い切ってジョッキに口をつける。
水中で固いものが動くかこん かこん とした振動と音を聞きながら、喉を通り過ぎるビールとウィスキーの味を堪能する。
「ちょっ!一気はダメ!」
そう店長から注意が来た頃にはジョッキの半分は胃の中へと消えていき……
一気に飲み干すものではないのかと、仕方なく手を離した。
「すみません!チェイサーを!」
小林先輩が慌てて注文してくれたが、ただやはり酔うという感覚が分からず、曖昧に笑ってコップを受け取った。
先程の刺激から比べると、水の何とも言えない味気無さに眉間に皺が寄りそうだった。
「な、なんかあったのか?」
眉間の皺を何と捉えたのか、小林先輩の表情はこちらを気遣うものになっていて、慰められたいのは自分だろうにこちらを心配そうに覗き込んで狼狽える姿は、可愛いと思わせる。
「先輩。かわいいですね」
素直な感想は酔っているように見えたかもしれない。
「そうじゃなくて!会社で……っ!?」
いじめられてるんじゃ……と心配してくれるのはわかるが、残念ながら箸にも棒にもかからないような人間に、そこまで構ってくる人はいない。
睨まれたり、愚痴のような文句を言われる程度でオレの周りは部長とのことを除けば平和そのものだった。
「って、……か、可愛いって、なんだよ ふざけんな」
失敗した と思っても後の祭りで、とっさに出た言葉は小林先輩を傷つけてしまったのか。
「すみません、なんか、可愛かったもので 」
そう言って、ごまかせてなかったことに気が付いた。
「すみません」と重ねるのも逆にまずい気がして、なんと言ったものかと視線をジョッキに移した。
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