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第47話

「いや、だって、   ずっと誘いを断ってるから、俺   てっきり 一緒に来ないだけで    」  萎んでいく言葉尻に合わせて、小林先輩の肩も縮む。 「恋人がいたら、こんなに一人で出歩いて怒るんじゃあって思ってたんだけど、独り身だったの」 「  ええ、はい」  部長は、もしかしたら恋人ができるかと、足繁くバーに通っていると言ったら、どう思うだろうか?  あの表情が変わるところを想像できなくて、ぶるりと首を振る。 「   店長さんは、彼とパートナー?でいいですか?」  そう言いながら、店の中をちょこちょこと歩き回るピンク頭の彼に視線を映した。  のびのびとした、愛されているのがよくわかる笑顔で、見ているこちらが幸せをもらえるような子だ。 「恋人なんですけど   ね」  ちょっと唇を尖らした表情が珍しく、「?」と首を傾げた。 「もうちょっと、進展させたいなと、思ったり  なんかしたり    して」  カウンターの向こうから、ぽそぽそと声を潜めて教えてくれる。  恋人を、進展? 「一生一緒に暮らす予定なんで」  ぴんときて、思わず小林先輩の背を叩く。  萎れていた小林先輩は、イラつきを滲ませた顔でこちらを睨んだが、話のあらましを耳打ちすると急に元気が戻ってきたようだった。 「それじゃあ  !」 「なーにー?」  間の抜けた訊ね方で、根掘り葉掘り聞こうとしたオレ達の間にピンクの彼が割り込んでくる。  きょときょととオレ達の顔を見比べてから、店長に狙いを定めたようだった。 「まーた育児してるって言ったんでしょ」 「実際、育児だろ」  店長の声が男っぽく落ち着いていて、彼と話す時のこの声が素なんだろう。 「んもぅ!」  彼の少し子供っぽい言動を見ていると、確かに店長は育児をしているのかもしれない。  いや、もし、関係を進める  の言葉の解釈がオレの考え通りなら、名実ともに育児になるのか…… 「いや、そうじゃなくて」  詰め寄られてしどろもどろなのに、隙を見てこちらに視線で「しぃー」と黙っているように指示を飛ばしてくる。 「違うの!?」 「違うよ。そんなんじゃなくて  」  そう言うと店長は彼を引き寄せてこめかみにちゅっと短いキスを落とす。 「改めてな」 「ふぇ?」  どう言うことかぴんと来てない彼には悪いが、こちらはもしやプロポーズを考えているのではと言う場面に遭遇して興奮気味だ。  小林先輩と目を合わせて、ふふふと含み笑いをした。

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