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第49話

 あんなに抱かれているのに、部長とはこうやって手を繋いで歩く機会が訪れることはないんだと、返事ができないまま三つ目の街頭の辺りで気が付いた。 「  なんか、悩みごとか?」  悩みごと と言うより、ない物ねだり。 「いえ、  何でもないです。なんか、手を繋ぐのって照れくさくて 」  誰かと手を繋いで歩くなんて、小学校の行事以来だ。  ちょっと控えめな風な力の込め方が初々しくて、しっかり握られるよりも気恥ずかしい。 「そっか、照れくさいって思ってもらえて、嬉しい」 「先輩?」  夜の帳が降りたそこは色彩が暗く沈んでしまっていて……  顔色が、赤い?  一瞬前に街灯を過ぎてしまったせいか目が慣れず、よく見えない小林先輩の顔を見上げた。  きつい三白眼がオレを見下ろす。 「 せ、ぱ   ?」  睨まれているのかなとひやりとしたけれど、そうじゃない。  こちらを真剣に見てくれているんだ。 「あの、さ。付き合ってくれ」  「どこにですか?」と言う野暮ったい答えは寸でで飲み込めた。  だからと言って代わりの言葉が思い浮かばず、「え」とか「あ」の短い言葉にもならない音が口から洩れた。 「     いや、でも、先輩お付き合いしてる人、いっぱいいるじゃないですか」 「全員に振られてるけどな」  そうだった。  触れてはいけない部分に触れてしまった焦りで、背中が汗でびっしょりになった。 「そ でしたね」  気まずいけれど、何か言わないと始まらない。  いつもいろいろな人に軽く声をかけて付き合っている小林先輩だから、オレのこともその延長で声をかけたのかもしれない。  恋人がいない後輩を気遣ってくれたんだろう。 「あの二人に当てられちゃいました?あは  小林先輩もそうやって冗談言うんですね」 「ち、違うって!」  掴んだままだった手を引っ張られ、よたよたと小林先輩の真横に並ばされた。 「お前、やっぱり鈍い」 「酷い!」 「だからはっきり言うからな、聞けよ」  何事かと息を止めて構えるオレの両肩を掴み、小林先輩は一気に息を吸い込んだ。

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