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第67話

 見てられなくて目を逸らそうとしたのに、部長はそれを許さなかった。 「見ろ と、言った」  声は物理的に何かさせることなんてできないはずなのに、その強制力に抗えないのはどうしてなのか。  睫毛が震えると涙が押し出されて頬を伝う。  見るのが嫌なのに、鏡の中のオレと視線が合った。 「ぅ っいやぁ  、こんなの、は  やめ   」  否を唱えているはずなのに、結合部分はひくりひくりと喜んでいる。  オレの言葉は嘘と、告げてしまっている。    唇の右の端が歪んでいる。  笑っているのだと朦朧とした意識で思い、反射的にその唇に吸い付く。貪られすぎて腫れぼったいせいか、擦れると熱くて飛び上がりそうになる。  ナカが熱くて、ローションとは違うぬめりが肌と肌の間で擦られて粘つく音が耳を打つ。  水っぽい肌の打つ音、上がる嬌声と、シーツに落ちる涙の音。  噛みつくような乱暴な愛撫に乳首は尖りっぱなしで……  尻を上げて獣のように組み伏せられて喜んでいる自分を見られて、胸が苦しくて辛いはずなのに、その痛みが甘やかに思えて仕方がなかった。    シーツに沈んだ腕は、指先だけが辛うじて動いた。  体は痛みと、背後からしっかりと抱きしめられて動けない。  苦痛と、違和感。  オレを抱きしめている腕の先に、指輪を見つけてどきりとした。  わかっているはずなのに、普段意識的に目に入れないようにしているそれが目に入ると、落ち着かなくなる。  そして、首筋の辺りから、響く小さな寝息が……  落ち着かなかった心臓が大きく跳ね上がった。

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