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第68話
関係を持ってから、初めてのことだ。
後ろを振り返れば寝ている部長が、いる。
「……」
眠っている?
ぴったりと触れ合った背中の熱と腕の重み。
昨日あのまま 力尽きてしまったのか……
そろりと首を傾げて背後を伺うが、乱れた髪しか見えず、だからと言って振り返れば部長との間に隙間が生まれてしまうのが嫌で。
その寝顔を見たい欲求もあったが、望むことではないと思っていた腕に包まれる温もりの方が勝った。
コロンの匂いが薄れて、汗と、体臭と、青臭い精液の臭い。
何度も体を重ねたが、初めてのことだ。
仄暗い嬉しさでくらくらと目が回りそうだった。
「 ────っ」
堪らなく好きなのだと思った途端、ぽとん と雫が落ちる音がする。
小さな嗚咽でも部長の眠りを覚ましてしまいそうで、唇を噛んでぐっと息を詰めた。
噛み締めていた唇は傷ができていたらしく、部長に舐められてぴりりとした痛みを訴える。
目覚めた部長は何事もないように起き上がり、寝起きの姿を一片も想像させない表情で顎を掴んで口づけてきた。
「 は、 っ」
血の味がする口づけ。
「どうして寝て起きただけで怪我をしてるんだ」
唾液で伸ばされた血は部長の唇まで汚してしまい、膨らみの上で光る自分の血を舌先で舐めた。
「金臭いな」
「 ま、 せ 」
謝罪するもパクパクと唇だけが動き、喉を風がひゅうと抜ける。
無理に出そうと大声を出そうとしてみるも、喉の痛みに負けてままならない。
「酷いのは顔だけじゃないな」
傷ができて腫れている箇所を、部長の指が容赦なく押さえつける。
痛みに顔をしかめて見せるも指の力が緩むことはなくて。
「────ぃ、た ぃ」
首を振って絞り出した抗議の声でやっと解放されたが、そこだけ灼けてしまったかのように熱い。
「 」
「 っ 」
「後で飲み物を買ってきておく、帰りの時間まで休んでいるといい」
慌てて首を振って縋ろうとするも、昨夜気を失うまで攻め立てられた体に力は入らず……
皮肉気に笑いが落とされた。
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