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第69話
体中の痛みと疲労で動けないオレを、部長はあっさりと置いて相手会社の方へと行ってしまった。
枕元に置かれたゼリー飲料とスポーツドリンク。
いつかのようだと思い出し、笑いそうになったが潰れた喉からは碌な音が出ず、情けなさに顔が歪んだ。
重い体を引きずるようにシャワーへと向かうが、途中で力尽きてへたり込むと、腹の中から押し出された白濁の液が腿に伝う。
それを見て、体に震えがきた。
目の端に映る鏡は、昨日の痴態の一部始終を映したものだ。
今映っているのは……泣き腫らした、みっともない顔の自分。
鏡から視線を外して、独り置いて行かれた惨めな自分に涙が零れた。
身なりを整えられはしたが、取り繕えたのは服装だけで、腫れた目元も切れた唇も体の痛みもどうしようもなかった。
痛みでおかしな歩き方になることに項垂れたオレに、部長は声を掛けずに無言のままに帰路に着く。
潰すような抱き方に、この人は何も感じないんだろうか?
奥さんもあんな風に乱暴に抱くんだろうか?
疑問はあったけれど到底言葉になんか出せる質問ではなく、飲み込む他ない。
それに加えての中途半端にしてしまった仕事への責任感と、後悔で気持ちはますます沈んでいく。
新幹線がホームに着いた時、溜め息と共に吐き出すように部長が口を開いた。
「 明日は、報告書をメールで送るだけでいい」
「い え、大丈夫です。出社します」
小さな嘲りの声がして、視線がオレに止まる。
チリチリと焼くような視線が、今どこに留まっているのかわかってしまうのは、どうしてなのか。
傷のついた唇がむず痒くてきゅっと引き結んだ。
「そんな顔でか」
どんな顔をしているのかは、さんざんどうにかならないものかと鏡を見た自分が一番知っている。
情けない、惨めな顔。
部長にはがっかりされたのだろうと思うと、足が竦む思いだった。
「出張明けは報告書さえ出せば休みが認められるのは社則だ」
今まで出張明けで休みをもらった人を見たことがない、あってないようなそんな社則はすっかり忘れていた。
休んだことがないのは部長もそうだったので、同行した自分が顔も出さないと言うのはいいことじゃない。
「そうですが 」
「黙って大人しく家で寝てろ」
ばっさりと切り捨てられて、突き放された態度にここでは泣くことも出来ずに、項垂れて足元を見る。
「 すみません、お言葉に甘えます」
そう返すのが精一杯だった。
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