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第70話

 体を休めるのが正しいのだと思う。  家で体を休めつつ、腫れを引かす方法を検索するのが一番だと思うのに、アパートに一人でいたくなくて結局いつものバーへと足を向けた。  柔らかいベルの音と、考えられた間接照明にほっと一息つく。 「ちょっと大きい荷物があるんですけど」 「じゃあ端の方がいい?」  頷いて、案内された椅子に腰かけると店長がぎょっとした顔をした。いつもにこやかな表情をしていることを思うと、オレの顔はそんなに酷いのか…… 「はい。こーれ」  弾けるような笑顔で手渡されたものは、おしぼりに包まれた保冷剤だ。 「あー……」  手の甲で触れると、熱い感触が返る。  彼の気遣いに嬉しく思いながら有り難く受け取って、それを目元に当てた。 「あはは  みっともないですね」  反応に困る言葉だとわかるのに、口から出してしまった。 「それだけ一生懸命なんだよ!」  一生懸命?  出張から帰った足でそのまま来たから、仕事で失敗したようにでも見えたんだろうか?  仕事での失敗だったら、良かったのにと思うのは社会人として失格だ。 「今日はアルコールは止めて、こちらはいかがでしょうか?」  目の前に出されたのは、 「ココア?」 「甘さは控えめで作っています、お好みでどうぞ」  そう言って添えてくれたのは、可愛らしいピンクと白のハート型のマシュマロだった。 「何でもあるんですね」  ココアやマシュマロが普通に常備されているのかは知らなかったが、こうやって出されるのは初めてだ。 「たまたまですよ」  柔らかく微笑まれ、こちらも小さく笑いが作れた。  深いチョコレート色の液体がカップの中で光を映して揺れる。  ほろ苦さと、甘みと、  両手で持ったカップの温もりに涙を誘われそうになる。

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