76 / 105

第75話

 小林先輩の座る位置の反対側の椅子に腰を降ろして身を縮めた。 「コメディにするかぁ」 「  いいですね」  映画が始まってしまうと会話が途切れてしまって、画面に目を遣るも内容が入ってこない。 「そっちの、コップ寄越せ」 「え、あっ注ぎます!」  慌てて小林先輩の選んだお酒を持ち上げる。開けると甘い香りがして、やはり小林先輩の外見のイメージからは程遠い好みに笑う。 「やっぱり甘い方が好きなんですね」 「甘くないと飲みにくいだろうが」 「  そうです?」  苦いのが、好きだ。  喉に残るような苦みが好みだと言うと、変わっていると言われるかもしれない。  赤と青の切子グラスにそれぞれの酒を注いで持ち上げる。 「えーっと乾杯しますか?」 「何に」 「……」  短く尋ね返されてしまうと返事に困る。  努めてくれてはいるが、小林先輩はそんな気分じゃないだろう。  はっとなったオレに、慌てた顔が向いた。 「悪い。違う、えっと    お泊り会に」 「 はい  お泊り会に」  軽く上げられたグラスに倣い、同じように上げてから口をつける。  アルコール度数の高い、苦みのある液体を飲み干してほっと息を吐いた。 「ほら」  空いたグラスに酒を注がれて頭を下げる。 「  すみません」  透明な氷が器の中でかこん と小さく音を立てた。  映画の音は響いてくるものの、落ちてくる沈黙はどうしようもなくて、気まずくて二杯目の酒に口をつけることができなかった。 「やっぱ駄目だ」    びくっと飛び上がる。 「ちょっとはっきりさせとこうか」 「    はい」  グラスを持つ手が震えて落としてしまう前にテーブルの上に戻した。 「恋人はいないって言ってたよな」  言葉に出来ず、頷く。 「あれから今までで、恋人ができたんなら    ここに来たりしないか」  小林先輩はグラスを戯れに傾けて、その度に中の氷がカコカコと軽い音を出す。 「合意ってことは酔って連れ込まれたんでもないんだろ」 「  はい」 「お前酔わないもんな」 「……はい」 「行きずり?」  どんどん、自分のふしだらさが暴かれていくようで……

ともだちにシェアしよう!