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第75話
小林先輩の座る位置の反対側の椅子に腰を降ろして身を縮めた。
「コメディにするかぁ」
「 いいですね」
映画が始まってしまうと会話が途切れてしまって、画面に目を遣るも内容が入ってこない。
「そっちの、コップ寄越せ」
「え、あっ注ぎます!」
慌てて小林先輩の選んだお酒を持ち上げる。開けると甘い香りがして、やはり小林先輩の外見のイメージからは程遠い好みに笑う。
「やっぱり甘い方が好きなんですね」
「甘くないと飲みにくいだろうが」
「 そうです?」
苦いのが、好きだ。
喉に残るような苦みが好みだと言うと、変わっていると言われるかもしれない。
赤と青の切子グラスにそれぞれの酒を注いで持ち上げる。
「えーっと乾杯しますか?」
「何に」
「……」
短く尋ね返されてしまうと返事に困る。
努めてくれてはいるが、小林先輩はそんな気分じゃないだろう。
はっとなったオレに、慌てた顔が向いた。
「悪い。違う、えっと お泊り会に」
「 はい お泊り会に」
軽く上げられたグラスに倣い、同じように上げてから口をつける。
アルコール度数の高い、苦みのある液体を飲み干してほっと息を吐いた。
「ほら」
空いたグラスに酒を注がれて頭を下げる。
「 すみません」
透明な氷が器の中でかこん と小さく音を立てた。
映画の音は響いてくるものの、落ちてくる沈黙はどうしようもなくて、気まずくて二杯目の酒に口をつけることができなかった。
「やっぱ駄目だ」
びくっと飛び上がる。
「ちょっとはっきりさせとこうか」
「 はい」
グラスを持つ手が震えて落としてしまう前にテーブルの上に戻した。
「恋人はいないって言ってたよな」
言葉に出来ず、頷く。
「あれから今までで、恋人ができたんなら ここに来たりしないか」
小林先輩はグラスを戯れに傾けて、その度に中の氷がカコカコと軽い音を出す。
「合意ってことは酔って連れ込まれたんでもないんだろ」
「 はい」
「お前酔わないもんな」
「……はい」
「行きずり?」
どんどん、自分のふしだらさが暴かれていくようで……
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