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第76話
一つ一つ暴かれていく毎に、顔が赤くなっていく。
「も 、オレ 」
視界が潤むが、泣きたいのは小林先輩だろうとぐっと息を詰めて我慢する。
「や、すまん。責めたいとか泣かせたいとかじゃなくて 大丈夫かってことなんだけどっ」
乱暴にグラスを置くと、テーブルを回り込んでオレの傍に立った。
腕を取られて袖を捲られると、赤い指の痕が現れて……
「体は大丈夫なのか」
「だ 大丈夫」
「手当てがいるようなことはされてないか?」
指先で痕に触れられると、痛くもないのにびっくりして飛び上がってしまった。
ごめんと小さく謝られたが、小林先輩は何も悪くない。
「も もともと、赤みが分かりやすいので 大袈裟に見えているだけです」
「色白いもんな」
つぃ……と取られたままの腕の内側を撫でられ、くすぐったさに身を捩った。
「別に 関係ないって言われたらおしまいだし、口挟むのもあれなんだけどさ。そんなにまで泣かす相手で、満足してんの?」
満足 と言う言葉の枠が分からなかった。
抱かれるの意味合いだけに言うのならば、ついて行けないくらい翻弄されている。
気持ちの話だとするならば……
たぶん、一生無理だ。
「幸せになれんの?」
それもたぶん、無理。
「あの 」
ぽと と、突き付けられた事実に涙が零れた。
ズルい誘われ方をした段階で、何かあった時に切り捨てられるのはオレだと決まっている。
何かあれば、部長はあっさりとオレを捨てるだろう。
理解している。
不倫を始めたのはオレで、オレに責任がある。
部長は出張の同行を求めただけで、抱かれに押しかけているのは自分自身だ。
「 オレが、一人で 浮き沈みして泣いてるだけで 」
「セックスは一人でするもんじゃないぞ」
「そ うですけど 」
ぱたぱたと落ちる涙を、小林先輩は袖口で優しく拭ってくれた。
「俺さぁ……お前が異動になってからさ。ちょっと自信ついたんだなって、しっかりやってんだなって、ほっとしてたんだけど 」
「 」
「なんでこんなしんどいことになってんの」
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