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第78話
「 オレ、もっと うれ 嬉しくなれるもんだと 」
しゃくり上げる度に涙が零れる。
「こん、なっ 」
せめて言葉でもかけてもらえたら、
せめて微笑みかけてくれたら、
せめて、二人でいる時くらい、家庭を忘れてくれたら、
せめて、せめて と言葉が募る。
決して募らせてはいけないはずの、部長を煩わしてしまうような言葉が積もっていく。
吐き出せなくて、
「苦 し 」
小林先輩は、譫言のように繰り返すオレを辛抱強く抱き締め続けてくれた。
さんざん言えなかった言葉を吐き出して一度冷静になってしまえば、他人の腕の中で駄々をこねて泣いているのが恥ずかしくて……
もぞもぞと体を動かして身を引こうとした。
「なんだ。もういいのか?」
「え、と あの、落ち着きました」
かぁっと赤くなってしまった顔を小林先輩から逸らすが、回り込まれて逃げることができず、じぃっと顔を見られる。
「赤いな、擦りすぎたか?」
「や、平気です、平気」
実際に赤いのは恥ずかしかったからで、軽く押さえるようにして拭いてくれていたので、肌が痛むことはなかった。
乱暴そうで、思いの外優しい手つきが面映ゆくて。
腕を突っぱねて距離を取る。
「なぁ」
「はい?」
「痛くないとダメとか?」
は?と間抜けに返せば、小林先輩は顔を赤くして俯いてしまった。噛み砕いて話そうと言葉を選んでいるのを見ていてやっと意味に気がついた。
SMの趣味があるのかと問われているのだと、握った手に汗をかくのを感じる。
「ち、違います!」
大慌てで手を振るが、どこまで説得力があるのか……
「そか、ほっとした あのさ、その相手を切って、俺と付き合わない?」
ぽかんとなったのが自分でもわかる。
小林先輩が打たれ強く立ち直りも早い人だとは思ってはいたけれど、他の男の痕跡のある人間に告白できる人だとは思わなかった。
「 え、だって オレ 」
「別に俺だって童貞ってわけじゃないし」
目つきのせいか、ぶすっと膨れると怒っているようにも見えて。
でも耳まで赤いのは怒りじゃない証拠だろう。
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