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第80話
客用の布団はふかふかで、あまり寝具に頓着のないオレでもそれが寝心地のいいのがわかる。
「来客用だから寝にくいかもなー 俺の方で寝る?」
マメに干されているらしい布団は仕舞い込んだ臭いもせず、お日様のいい香りがした。
寝にくいの基準がわからずに首を振る。
「いえっ十分です!」
「残念だ」
バーでお喋りしたり、会社で会ったり、そう言った場所以外での、本当にプライベートなところを見ることができたけれど、色々と意外すぎた。
「明日は一緒に出社でいいか?」
「オレ、報告書書いて会社に送れば休みなんです」
布団に沈もうとしていた小林先輩ががばっと飛び上がった。
何事かと身構えるオレに、鬼のような形相で迫ってくる。
「なな な、なんですか!?」
「そう言うのはっ!もっと早く!」
「え?」
どう言う意味なんだろう?
首を傾げて見せると、頭をガシガシと乱暴に掻き毟ってから、深呼吸をした。
「んじゃあ俺、明日出社して半休もぎ取ってくる!」
「どうして!?」
「 そりゃ、デートしたいから」
赤い顔が照れているのか曖昧な表情になっている。
「もっと早く言ってくれてたら、朝から休みもらったのに!」
恨みがましい顔がベッドから見下ろしてくるが、オレはドキドキしてそれどころじゃない。
「最速でもぎ取って、一日の仕事終わらしてくるからな!」
「報告書はメールで送るので 先輩が終わる頃にどこかで、あの 待ち合わせ、しますか?」
デートをするなんて経験するとは思ってもみなかった。
ましてや待ち合わせとか……そんな事ができるなんて……
ずっと諦めていたことだけに、気分は月にでも飛んでいきたい気分だった。
意外過ぎる小林先輩の私生活と発案のおかげで、ぐっすり眠ることができた朝はすっきりしていて……どうやら寝過ごしてしまったようだった。
ベッドの方を見てみると、きちんと整え直された布団が見える。
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