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第81話
「お、おはようございます」
「ん。おはよ」
眠そうに眼を擦りながら新聞を読む小林先輩の前には、きちんとした朝食が並んでいたが、テーブルの上を見渡せるようになる頃には、足がすくみそうな気持だった。
「朝は何がいいかわからんかったから、適当にしといた」
サラダに、マフィンに、サンドイッチ、ベーコンエッグ、三角のおにぎりに、焼き魚、出汁巻卵、シリアル、何種類かの果物が盛られた鉢、それにオレンジジュースに牛乳に、紅茶、コーヒーの匂いもするから、テーブルにないだけで用意されているのだと思う。
「味噌汁やスープもあるけど」
「なん 何事ですか 」
「このテーブル狭いよなー。もうちょっと肉物がいるか?」
「な、何時に起きて準備したんですか!?起こしてくれたらよかったのに!」
新聞を畳みながらあくびを噛み殺すのを見ると、あまり寝てないんじゃないだろうか?
「気持ちよさそうに寝てたからさ、できるだけ寝かしといてやろうかなって。やっぱ回復には睡眠が一番!」
顔を洗ってこいと言われて覗き込んだ鏡に映る自分は、しっかり眠れたし、昨夜泣いて過ごさなかったせいか腫れてもいないし、赤くもない。
小林先輩が提案してくれたことでこんなにも浮上してるんだから、現金だな と頬を抓ってぼやいた。
報告書に目を通し、誤字脱字やおかしい箇所がないか最終確認をしてから送信した。
あまりにも呆気なく終わってしまった仕事に、平日のこんな時間に私服でいることが悪いことのように思えて……
「会社 行きたい、な 」
その理由が仕事がしたい ならワーカホリックだけれど、あの横顔を思い出してしまうのは……
けれど、その部長に休めと言われたのだから、無理に行っても冷たく睨まれるだけだ。
それに、本当に少しだけ、小林先輩を受け入れることができたら、幸せなんじゃないかなって思う自分もいて。
次回の出張に誘われたとして、オレは同行するんだろうか?
同行したとして、準備をして部長の部屋の戸を叩くのか?
今まではしなくてはいけない使命のようなものを感じていたけれど、断ることができたなら……
オレは小林先輩の元へ行けるような気がした。
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