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第82話
「みーつけた。待った?」
「いえ、全然 」
と言いたいところだけれど、目安にしていた時間は大幅に過ぎている。
「トラブルありました?」
自分がいない間に何か会社で起こったのだろうかと、そわそわと落ち着かなげに尋ねる。
「仕事人間だなぁ!いやちょっと……早退の理由でごたついてさ」
「理由?無理しないでくださいよ!出かけるのはいつでもいいんだし!会社での立場が悪くなります!!」
小林先輩にそう怒鳴ると、オレに怒られたことが新鮮だったのか小林先輩の瞳がキラキラと輝く。
「心配?心配してくれてる!」
「しますって!普通に!! で、なんて早退してきたんですか?」
ちょっといたずらが見つかった子供の顔でごまかすように笑ったので、厳しい顔をして首を横に振った。
「んー……祖母が危篤ってことになってる」
「何回目の危篤ですか?」
「えっと 」
指折り数えて思い出そうとする顔に思わず笑った。
「バレますよ!」
「設定では病弱なんだ。 次は祖父にするから大丈夫、まだ2回しか葬式やってない」
「それは絶対ダメな奴!」
そう怒ったふりして注意してはみたけれど、両手を使って数を数えている姿が面白くて、笑い声を上げて笑ってしまった。
オレが笑ったのを見て、小林先輩も笑ってくれる。
元気な祖父母で休みを取るそれは、オレを笑わせたい為の嘘だったんだろうな。
「お腹空いてる?」
「 少し だけ」
時計を見るとそろそろ込み合うランチの時間だった。
「タイミング悪かったな」
「並ぶの平気派ですか?並ばずに食べたい派ですか?」
並ぶ人数に変わってくるだろうけれど、少し待つくらいのは苦痛じゃない。
「探して、行列が少ないところなら待ってもいいかなってとこかな」
意見が同じだったのが嬉しくて、はにかんでそうですよね と同意する。
「待ってる間、いろんな話できるだろ?」
「あっ そうです、ね」
横に並んで店の順番を待つ間、取り留めのない子供の頃の話や、祖父祖母の話などをした。
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