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第91話

「  う 、っ  自惚れないでください」 「辛辣だな」  指先の涙はあっと言う間に消えて、 「そん  」 「何も言わないのだから、それでいいのだと解釈していた」  光の消えた指先で唇をノックされたが、ぎゅっと真一文字に口を結んでそっぽを向いた。 「何も言わずに、理解しろと?」 「     」 「お前こそ、自惚れるなよ」  ぐっと力の籠った指が咥内に入り込む、逃げる前に舌を摘ままれ引っ張られ、動けないままにだらしなく口を開ける羽目になってしまった。 「  ふ、  ぅ」  舌を捏ねられ、返事もできない。  端から零れた唾液を舐めとられ、体が戦慄いた。 「従順に受け入れておきながら、自己完結か」  掴まれたままの舌をいやらしく撫でられると、体中の力が抜けるようだった。  指が離されるのが辛くて、降ろされた手を視線で追って見詰める。 「物欲しそうだな」 「   っ  ちがっ」  咄嗟に否定するも、部長の言葉は的を射ていて、反論らしい反論もしないまま項垂れた。  物欲しいと言うなら、オレを抱いている腕が欲しい、でもこの人は家族を捨てるような人じゃない。  理解してしまっているから、足掻こうと思うこともできない。  首筋に柔らかな呼吸が当たるのを感じながら、言葉を見つけることができずにいた。   「    わかった」    長い沈黙だった。 「     執着は 見せているつもりだったが 」  頬を撫でられ、こめかみに唇が触れる頃には視界が涙でぼやけて見えなくなっていて。  望んだ言葉だったはずなのに、  自分から言った言葉なのに、  了承されてしまうと心臓を鷲掴まれるようで……  「しまいだな」  いつも乱暴に引き寄せるばかりだった腕が、驚くほどの優しさでオレを突き放した。  膝から降ろされ、  床に立たされ、  腰から手が離れ、  最後に手だけが繋がれる。 「     ───このまま、今夜だけ傍で過ごさせてもらえませんか?」 「 お前は   一晩一緒にいてどうなるか、まだ懲りてないのか」  足も腰も立たず、みっともない顔になったあの記憶は鮮明で……  促しに従って部屋を出るべきなのに、動き出せなくてぼんやりと目の前に立ち尽くすオレの腰を、大きな手が引き寄せる。

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