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 いつもの奪い尽くすのとは真逆の行為は、丁寧に優しく扱われている証拠でもあったが、焦らされている風でもあって、感じて極まっているのに肩透かしを食らったような思いがちりちりと脳を焼く。 「  ン、ン」  緩やかな律動が焦れった過ぎて、視界が涙で滲んで部長の顔がよく見えなくなる。  指先で捏ねてツンと尖らせた胸の飾りを舐められ、声は出て感じてはいるのに決定打にならず、溜まる一方の熱が苦しくてシーツに爪を立てた。 「  ぶ、ちょ、 オレ、も   っぁん  」  堪え切れずに嘆願するも、慰めるようなキスを返される。 「 もう少しだけ、」 「ぇ  」 「ナカにいさせてくれ」  掠れた艶っぽい声の嘆願にびくりと体を震わせると、上に覆いかぶさった部長が小さく呻いて首を振った。  眉間に皺を刻み、息を詰めて射精感を堪えたようだった。 「 おま えは  っ」 「す、みませ  」 「謝罪しつつ締めるな」  ソコが体の意志を無視して、部長が欲しいと勝手に締め付けるのだと、説明するのは恥ずかしくて、半べそをかきながら身を縮込める。 「 だって   」  緩く緩く突き上げ続けられ、体はもう限界だ。  熱を出したいのに出させてもらえなくて、快感と苦痛と焦れる感覚に揺さぶられて体は言うことを聞いてはくれない。  つぅ  とこめかみを流れた涙の感触に震えて、小さく首を振る。 「  も、 ぃや。奥、 おくぅ……くら さ、くだ  ちょ だい」  呂律の回らなかった語尾を譫言のように繰り返すと、こちらを見下ろす部長の眉間の皺が一層深くなった。  何の苦悩かなんて、オレにはわからなかったけれど、潰されそうな程の力で抱きしめられて息が止まった。  ひゅ と肺から出て行った空気を求めて喘ぐも、力は緩まない。 「爪を立てないように、しっかり握り込んでおけ」  熱っぽい、荒い掠れた声で指示されて、どうして?とかなぜ?と問いかける前に爪を隠すようにきつく拳を作る。 「手首で縋りつけ、いいな?」  手首?と問いかける前に最奥を突かれて声が零れた。  肺にはもう空気なんてないと思っていたのに、部長の動きに合わせて音が漏れる。 「あ、ぁ  あっ 」  苦しくて全身に力が入るのに、イイトコロを突き上げられる度に崩れ落ちそうで、綯い交ぜの両極端な感覚に思考は奪われて……  泣きじゃくって、  促されるままに欲を放って、  腕の力が抜けて部長の背中から手が滑り落ちて初めて、空気を吸い込めた気がした。  息を切らしてオレの上に倒れ込む部長は汗だくで、こめかみに触れると汗の感触がある。  いつも余裕な風とは違う姿に、胸が…… 「 っ」  つきりと痛むのは、優しい抱き方に奥さんの影を見てしまうから。  彼女はこんな風に、抱かれているのかもしれないと思ってしまったから。  再び溢れた涙を、部長が首を傾げて見やる。 「どうした」 「くる し  くて 」 「重かったか?」  慌てて首を振り、体を離そうとした部長を抱き締める。  ぎゅうっと力を込めたオレを抱き締め返し、とんとんと宥めるように頭を軽く叩かれた。  子供のような扱いだと思うもそれも嬉しくて。  肩に頭を摺り寄せて、滲んだ涙を誤魔化すために擦り付けた。 「何か不満だったか?」 「  ────」  答えようと口を開くも言葉が見つからず、開いた唇を閉じて首を振る。   『奥さんもこんな風に抱くんですか?』  なんて、聞いたところでどうなる? 「…………」 「だから、大丈夫かと聞いたんだ」  溜め息交じりのハシバミ色の瞳に見詰められて、どうしても誤魔化せない涙が一滴零れてしまった。 「──── 好き、です」  「ああ」と短い返事がして唇が落とされる。  決してそれ以上の返事が返ることはないだろう。  ズルい人だとわかってはいても、オレのわがままを聞いてくれたのが嬉しくて、辛くて。  指輪の痕の白い筋を見たくなくてそっと目を閉じた。  END.

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