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 髪を掴んでこちらに顔を向けさせると、一瞬視線が逃げてからこちらを見た。 「触れられて、ないと?」 「さ さわら、れては  ないです」  堪えきれなかった涙が一雫。 「触られて『は』?」  跳ねる体が逃げを打とうとしたのを押さえつける。  華奢な体が敵うとでも思っているのか、往生際悪く動こうとするのが可哀想で哀れだった。 「ナニを、させた?」  視線で皮膚の上を辿ってやれば、それがわかるのかまた首筋から赤みが増して……  加虐心なんて、こいつに会うまではちらりとも思わなかったことだ。  思わず押さえつける手に力が篭って、ベッドがギシギシと音を立てる。 「  あの、花を   いただきました」  大の大人が花をもらって恥じらうと?  隠語かとも思ったが、一つ思い当たることがあった。 「一時、会社が花で溢れかえっていたことがあったな」  花屋に貢がれているとか言う噂の元になった出来事のはずだ。 「揶揄ったお詫びにと。たくさん頂いて」  何事かと思っていたが、アレの原因はコレか。 「あの  その節は……部屋に入り切らなくて、会社にまでご迷惑を   」 「花ごときで赤くなるとは、随分と純情だな」  到底そんな可愛らしい事柄から程遠いことを、それこそ先ほどまで人のモノをうまそうに舐めておいて、花を貰って赤らむとは笑える。 「どうした?赤くならないといけないような疚しいことでもあるのか?」  気を抜くとこいつの視線はすぐに他に外れてしまうので、改めて顎を掴んでこちらを向かせた。 「何も!  ただ   」  絡まる視線は、熱が欲しくてこちらを見る際のソレだ。 「  部長は  そう言うこと しないから、新鮮で  う、嬉しかったんです」  唇を舐める舌の赤さがやけに目につく。  この男は、ふとした動作が人の目を惹くとわかっていないのだ。  一瞬見える色気と、被虐を煽るような泣き顔と…… 「    」 「    」  はぁ  と詰めていたらしい息を吐き出す。  根負けするのがどちらかなんて、結果の見えている勝負だ。 「 あの   部長?」  尋ねかける口に指を差し入れる。 「黙ってろ」  乱暴に掻き混ぜてやっても、満更でもない風で熱を含ませてとろんとなるくせに、花  だと。  煽ってやればあっさりと堕ちて嬉しそうに腰を振って悦ぶくせに、    花⁉︎  それを他所から貰って真っ赤になると  ? 「ゃ   なんか、怒って  」  舌を摘んで引っ張ってやると、泣きそうな顔をこちらに向ける。  閉じられない唇の端から溢れた唾液を舐め上げると、酷いことをされていると言うのにうっすらと口角は上がっていて……

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