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「あ、先生お疲れ様です〜」
「お疲れ様」
今日のノルマ十人の報告書、今日の検査を通しての患者の様子や、今日一日の様子や食事の召し上がり具合。その他気づいたこと等。まとめ提出しなければいけないものが山ほど。
そしてそれを終わらせるために集中し過ぎていて、気づけば先生が帰ろうとしていた。
夢の再会一日目がこんな形で終わるなんてあり得るのか…。逃してたまるかと、
「ねぇ」
帰ろうとする先生の行く手を阻んだ。
いやわかるよ?子供だよな…。重々承知してる。
「邪魔だよ」
怪訝そうにため息ついて、掴んだ腕を離された。
俺は先生に会えて嬉しいのに、先生は嫌そうな顔ばかり向けてくる。そんな顔させるつもりじゃなかったのになぁ。
たまらず今度はその手を握ると、とても冷たくて。手先が冷たくなるところきっと冷え性な所は変わってないのだと思った。
ここに患者としていた時は、よく手を繋いで院内を散歩をした。それは先生の手がいつも冷たくて俺が暖めてあげたいと思ってたからだ。
「聞いちゃったんだ、今日デートするんでしょ」
嫌な言い方をしたと思う。
「誰とデートすんの?」
津田さんに聞いたのだから本当は知ってたのに。
「先輩だよ…」
俺が質問をして、先生は困ったように呟く。
それの繰り返し。
「女の人?男?」
「男」
ぎゅっと強く手を握れば、ビクリと震えてみせる先生。なんだよそれ。
乱される心。
ふつふつと怒りが溜まっていく。
「へぇ…付き合ってるの?」
「え…?」
例えれば拍子抜け。そんな表情でこちらを見て、これを意図的になんてできる人じゃない。ああ、無意識なのかと溜まるイライラを抑えては子供を演じた。
「その人恋人?…付き合ってる人いるの先生」
口を尖らせて、上目遣いに視線を合わせ
項垂れるようにその腕に絡みついた。
コロリと騙されてくれないかと思うのだけど、
「お前がそれを言うか…」
聞こえてきたのは少し震えた声だ。
「え?」
どういうことだろ。
俺の頭の中では、はてなが沢山浮かんでる。
「なんでもない…僕に相手がいたらなに」
簡単に相手がいたらなんて言わないでよ…。
「俺との約束は?」
「…っ」
問詰めれば問い詰めるほどに、逃げたくてたまらない気持ちになっているのだろう。そんなことは分かるのに、先生の気持ちは全然分からない。
「急いでるから」
ぱっと離れてあげたら、いとも簡単に離れて行ってしまう。そんなに会いに行きたいのかよ。京さんに。俺の方がずっとずっと先生の事好きなのに。
あーあ。
「仕事しよ」
わからずや。
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