5 / 312
3
「佐藤」
学習能力が無い様に、佐藤と名乗った男は繰り返す。
キモいと思って無視しようと思った時、少し前の事を思い出した。
『ねぇ、暇?』
『恋人待ち~他当たってよ』
しつこくされるかと思ったけど、そのサラリーマンはすぐに少し離れた場所に座ってた奴に声を掛けに行った。
こう言う性癖してると、同類ってなんとなく分かる。そこに座り込んだ子もゲイだって気付いてた。
まぁネコみたいだから、オレは興味ないけど…
『サトウさん?』
男が近づくと、そいつはそう言って携帯から目を離した。
茶髪に赤いシャツ…雰囲気被ってんなーって見てたら、中身も似てたみたいだ。
『え…?違うのー?……まぁあんたでいいや』
…貞操観念が薄い。
『涼しいトコ連れてってくれる?ここ暑くって~』
する…とそのサラリーマンに腕を絡めると、ホテル街の方へと引っ張り始める。
『名前?ケイトだよ~ケイって呼んでくれる?』
「ああ。あれか…」
人違いだ…と言おうとしてその唇に気が付いた。
少し下唇が厚めの、しっとりとしてそうなオレ好みの唇。
「…………そう。ケイトだよ。佐藤さん」
そう言って笑顔を返すと、あからさまにホッとした顔で佐藤は微笑んだ。
ともだちにシェアしよう!