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「捨てたんだ」  ぶっきらぼうに言って指先でテーブルの上から弾き飛ばすと、佐藤は床に転がるそれを慌てて拾いに行く。 「…しかし」 「フラレたんだ。ペアリングの片割れだから、もう要らない」  手の中の指輪とオレの顔を見比べながら、どうしていいのか分からない顔のまま隣へと腰を下ろし、ぎゅっと抱きしめてくる。  突然の事に驚いて押し返そうとすると、手が背中を優しく撫で始めた。 「すまない、そんな事があったなんて思わなくて…泣かないでくれないか?」  泣いてなんかなかった。  悲しくもなかった。  相手に未練もない。  ただ、抱きしめてくれる佐藤の腕の中が気持ちよくて、泣いたフリをしてその胸にしがみつく。  セックス以外で、こうやって抱きしめられるなんて、本当に久しぶりだった。  もう2ラウンドこなし、やっと服を着る。  まだ股間にナニが挟まっているような錯覚にオレがよろりとよろめくと、佐藤が支えようと手を伸ばしてくる。  その手にすがりつくと、どちらからともなく唇を合わせた。  オレが舌を差し込むと、おずおずと応えるように舌が絡まり、ねっとりとした唾液が糸を引く。 「…だいぶ、上手くなったな」  そう厭味っぽく言ってやると、照れた佐藤は視線を外した。 「あの…この後、食事にでも…」 「行かない」  さらっと返すと、戸惑った顔がこちらに向いた。 「……じゃ…じゃあ、また会ったくれるかな?」 「会わない」  間髪入れずに返しさっさと出口へと向かうと、追い掛けていた佐藤に肩を掴まれて引き戻される。そのどこか怒りを含んだような表情に鬱陶しさを感じながら、その腕から逃れようと身を捩った。

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