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「ケイトの漢字はどう書くんだ?」  携帯にアドレスを登録しながら尋ねられ、今更違うとも言えないまま「カタカナでいいよ」と返す。 「俺は…」 「佐藤で入れとくからいいよ」  まぁ出会い系で使ってる名前なんだから、偽名だろうけど。  すぐに切れるなら、別にそれで構わない。  しかし佐藤って…もっと捻ればいいのに。  目の前のボリュームのある牛丼を頬張ってると、真面目くさった佐藤の目がこちらをじっと見ている事に気がついた。 「何?」 「20くらい?」 「そのくらい。おっさんは30?」 「お…っ……28だ」 「老けてるね」  そう言うと、むっとしたように唇を曲げる。 「年上過ぎるか?」 「へ?なんで?」 「ケイトの恋人になりたい」  思わず、ぶっと口の中から牛肉が躍り出た。  まじまじと目の前の男を見つめる。生真面目が服を着て歩いているような顔立ちを微かに赤らめ、こちらを見返している。  その頭の中では、体を繋げる事と付き合う事がイコールで繋がってるのだと言う事が容易に想像できた。人生初の体験をして、気持ちがジェット機並みに加速されているに違いない。 「もうちょっと落ち着いて考え直してみたら?」 「昨日からずっと考えてる」  昨日からって…ずっとヤる事しかヤってないだろ!?  全然落ち着いてねぇよ! 「好きなんだ」  恥ずかしげもなくそう言われ、オレの方が赤面してしまう。 「……もうちょっと…考えてからならいいよ」 「わかった」  嬉しそうに言うと、オレの頬についた米粒を取って笑った。

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