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カンカン…と階段の音を響かせながらアパートの二階へと登る。ちょっと時代に取り残されたような、そんなボロアパートだったけれど、そのレトロ感がオレは気に入っていた。
錆の浮いた階段の手すりを、機嫌よく叩きながら上がっていると、自分の部屋の前に白っぽい物が見える。
「…?あ!」
階段から見えた人影に、嬉しくなって階段を駆け上がった。
「姉さん!来てたの?」
そう声を掛けると、ドアの前に立っていた人物がこちらを向く。
にっこりとたおやかな笑みを向ける6歳違いの姉が、オレは大好きだ。家族で唯一、オレの存在を…性癖を認めてくれてる人だった。
白いワンピースを着ているせいか、暗い部屋の前ではほんのりと白く浮かび上がって見える。場違いな場所に立たせているのが申し訳なくて、急いで鍵を出してドアを開けて部屋の中に招き入れた。
「暑くてごめんね。エアコンなくて…すぐ冷たいお茶入れるから」
「うぅん。大丈夫よ」
小奇麗にはしているつもりだったが、姉が部屋の中に入ると、古いアパートが一層古く煤けて見え、その白い服を汚してしまうんじゃないかとはらはらする。
冷蔵庫を開けてお茶を取り出す。あまり料理はしなかったが、よく飲むお茶だけは毎日作っていた。
「ちょうど姉さんの好きなお茶、水出ししててよかったよ…」
「圭吾はマメね。私にも出来るかしら?」
「三島さんに言えばいいじゃん」
ぽっちゃりとした人の良さそうな家政婦の顔を思い出しながら言うと、姉は沈んだような表情を見せた。
「私ね。結婚するみたい」
「するみたいって…?」
姉は小さく首を横に振ると、ぽろりと涙を零した。
「どう言う事?」
長い黒髪で隠された姉の横顔を覗き込むと、外では分からなかったが、目の周りが赤く腫れている。
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